第9話 虐待
ええっと、美人のお姉さんの道具屋に毎日通うことに決めたはいいが……先立つものがないわけで。
親指と人差し指でわっかを作って、『コレでんがな、コレ』とか言う、あの真ん丸いのが足りん。
お金が無くて店に入ったら、まんま冷やかしだからね!
まあそれでもお姉様の軽蔑の眼差しがゾクゾクするという変わった性癖の持ち主でもあればかまわないのだろうが。
ちなみにこうやって円形にすることから、日本でお金の単位は〈円〉となった。らしい。まったく役立たずの豆知識だわ。
後ろ髪を引かれる思いで麗しの道具屋の近くを立ち去る俺。
まずは親切そうな人から情報収集ってことで、さっきのおいちゃんのところまで戻る。
「あの~、すいません~」
「お。なんだ、さっきの坊主か」
「えっと、正直にいうと今一文無しなんですが、小金でいいんで稼げる場所教えてもらえませんか?」
「はあ? 俺も貧乏だから金はあげられんぞ!」
「たかりじゃあないですって」
「じゃあ強盗か? 俺の持ち物で高級品はこの絹のパンツだけだ。これだけは死んでも渡さんぞお」
「そんなのいらないですって……もういいです……」
「はっはっは。冗談はこのぐらいで。ホラ、あそこに白い石造りの建物が見えるだろう。あれがダンジョンの入り口だ。あそこの1階でスライムでも狩ってから核をギルドで売れば小遣い程度にはなるぞ。1階のスライムなら一般人でも負けないだろうが多数を相手にはするなよ」
「…………じゃあいってきます。あんがと!」
「おう、頑張れよ」
おお、ここがダンジョン入り口。みたいだ。
門番っぽい人がいるな。止められたりしないだろうか。
ドキドキしつつもダンジョン内部へと足を進める。幸いながら何も言われたりはしなかった。
入ってみると結構薄暗い。所々に光ゴケがあるのだが、それが均一じゃあないっていうのか見えやすい場所と見えにくい場所とがある。
これだとゲームとかとは違って魔物に見えにくい死角から攻撃される危険率が高いんじゃないかと心配する。
だが、さらに少し進むと明かりが設置されている大きな広間に出た。
そこには既に何組かの先客がいて、おのおのが斧や剣などでスライムを叩いている。
想像ではもっと戦いっぽいものかと思っていたが、なにやら傍目で見ると想像以上にスライム虐めっぽくて、なおかつ流れ作業のように機械的に行っているからシュールな感じだ。
やってるのも冒険者というよりかは、俺よりも年齢の低い子供たちばかりである。
手の空いている子供たちからのいぶかしげな視線をスルーして更に奥へと向かう。
この広間は狩りには適している場所ではあるが、流石にこの中で子供らと一緒に混ざってやるには少し躊躇ったからだ。
年齢的にきついのもあるが、こういう所にも俺の村のような縄張りじみた、仲間内でしか威張れない害悪にしかならない人間たちの汚い専横が生まれているはず。
つまらないちょっかいをかけられて、つまらない人間と縁が出来るのも避けたい。
大体、ゴキブリホイホイの中で多くのゴキブリと混じって小さな利益に右往左往するような感じの生き方なんてのは俺の性分じゃあないからな。
人をゴキブリ扱いするなんてとか言われそうだが、日本や俺の村でもそうとしか言いようの無い人間ばかりが幅を利かせているのは事実だ。
広間を後にするとまた視界の悪い通路が広がっている。
まだ俺のMP量などを把握していないからあまり魔術は使いたくないのだが、一応視界確保はしておきたいので、候補となる魔術────
小さな電球のような光を生み出す、魔術としては初歩の初歩である〈ライト〉と
光の情報を増大して視界を確保する、魔物から目立たないで行動できる〈サーモアイ〉
の2つから選ぶことにする。
このうち個人行動であれば〈サーモアイ〉が適しているようだが、使ったことが無い上に消費MPも把握していない。第一レベルも低いので俺のMPも元から低いはず。
なら消去法で、当然使うのはこれしかない。
「大いなる神の光は我が道をも照らす。〈ライト〉」
以前魔術を勉強したての頃に使った〈ライト〉の呪文とは格段に光量と持続時間の違うその効果に目を見張る。
魔法使いのクラスを持っているかいないかではここまで差があるのか。
幼女神様、さまさまである。
照らし出された通路の奥には、丁度階段状の窪んだ部分に何匹か一緒にまとまっているスライムの上部が見える。
もしあの部分に灯り無しで足を踏み入れていたら、死ぬまではいかないにしてもそれなりのめにはあっていただろう。
さーて、初対戦といきますか。




