第86話 選択
現在、ティーやクレイアと共に、元次席とその仲間達がぶちこまれた牢の前に来ているのだが……
「ねえ、この人は本当にいいのかしら?」
ティーの言葉には────何がいいのか、が欠けている。
だがまあ俺は、それを彼女がわざとはぐらかしたのもわかっている。
ティーがこの人と言って指してるのは、元次席の肩を持つように軽々しく死刑反対を唱えた、あの日本にいればモンスターペアレントになっているような感じのおばさん。
一応、元次席と同じ牢に入れられてるが。
しかしこの女性は拷問はしていない。
そもそもする必要もない。
「ああ。問題は無い。エルフたちの好きなようにしてかまわない」
「でも一応同族でしょ? 多少考えることはあるんじゃないの?」
…………ティーの言いたいことは、まあ簡単だ。
話しの内容はこのおばさんの命とかよりも、
どちらかと言うと俺に対しての気遣いという奴だろう……
つまり同族を処断する俺の精神の心配をしているわけだ。
そしてそれと同時に────おそらく俺自身の器をはかろうとしている。
自分達エルフにとって、精神性が近い存在であるか。
自分達エルフにとって、味方をしてくれる存在であるか。
自分達エルフにとって、有益な存在であるか。
「────正直、ここまで精神がおかしい者は俺の望む世の中には必要はないな。なあ……ティーはこの街の様子を見ただろ?」
「ええ。ちょっと酷い状況だわね。もっともこの屋敷だけはまるで別世界のようだけど」
「俺は以前のこの街と同じような状況のところを遠い昔に……見たことがあるんだ。社会にとってまるで役に立っていない人間が権力を持ってデカイ面をしているばかりか、確実に悪事を働いている人間ばかりが大きな富を持っている世の中を……」
「…………」
「この街の多くの皆が苦しいめにあった事実……、それを横目に自己中心的快楽をむさぼってきた悪魔がいたという事実……、そしてそれが俺の手でようやく改善されようとしたにもかかわらず、まだ更に悪魔を楽にさせようとする気が狂ったような行為に酔う人間が居る。ホント笑えない……」
「…………」
「そう……ここまで笑えもしないおかしい世界が形成されてるっていうのに、何の思慮も無しにその悪魔に手を貸すのも────また悪魔であると────俺にはいわざるをえないな」
「…………わかったわ」
ティーもクレイアも、その後は暫く何も話さない……
正直……俺はこの判断が正義である……とは断定はしない。
が、悪であるともいいはしない。
実際、世の中に本当に正しい行為なんて何も無いと思ってはいる。
どんな結果も、それを上回る良いイメージ、可能性にはかなわない。
今回の件も同じこと。
最終的な結論は誰にもわからないが、
ただ俺はあくまでマクロな視点で見て、俺の周りを自分に住みよい世界にするベストを選択しただけである。
人の多くは、無駄に周りの人間を信じている。
だから、明らかにおかしい人間が居ても、そのおかしさを読み取って、先手を取って処断しようとは普通は思いはしない。
せいぜいが関係を持たないように避ける努力をするぐらいだ。
だが、だからこそ、巻き込まれるときはいつも後手に回ってしまう。
例え殆ど遠くない未来で、どうしようもない事態に陥ることが楽に想像できても、それを本当の意味で改善する手段には触れようともしない。
希望があるからだ。
悪人が善人になる万が一があるから。
しかしそれは、その可能性を得るだけの為に、その万が一の希望以外の、
それがもたらす全ての悪行と不幸を甘受しなくてはいけないという現実を無視した思考である。
俺にはただ、それら不幸の芽を摘むような努力をしない不干渉主義が────自分の手を汚したくないが故の、都合の悪いことを意識したくないが故の、ヘタレなだけの行動にしか見えないのだ。
鶏肉は大好きでも、鶏を絞めることはしないし出来ない、自分らの都合の悪い部分は見ようともしない人間達の生き方のようにだ……




