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第85話 豹変

 

 

 

いやあ、酷い目にあった……


まあ俺も思索にふけってる時じゃなく、普段の勘を働かせられる状況なら回避策ぐらいはとれたと思うのだが……




大体に────俺はイチゴが大好きだし、幼女神様も小躍りするほど大好きだし。


当然のように、祈りで出てきたら大抵はすぐ食べてしまうわけだ。


当たり前だよな。


ももいちごとか、異世界にまでやって来て30分の短いイチゴ生しか与えられなかったぐらい、俺達の間での苺の消費は早い。


祈って出てきた食料の中で最初に物色するのが苺なのだ。


今回の苺騒動の原因となる不恰好な苺。


あれだって苺ミルクにする予定で────かろうじて残っていた代物なんだ。


不恰好なのは味には特に影響ないしね。


潰してしまえば同じ。


それ以前に、苺の形が悪くなるのは品種とかは関係なくて、おしべからめしべへの受粉時に均一に花粉がめしべに付かない事が原因であって。


形以外、別に苺自体の味とか品質が悪いというわけでもないのだ。


市販品は多くの場合はミツバチなどを使って綺麗で均一な、形のよい苺を作る。


これ結構重要で、ミツバチ不足の年などは農家でミツバチ盗難とかあったりするらしい。



んで、まあ結局は……苺の手持ちは試食会で出したアレだけしかなかったわけで────





「あ、あの、この……苺でしたっけ、この果物はもう無いのですか……?」


おずおずと遠慮深そうに聞いてくるクレイア。


しかしその内心には、生来の遠慮深さを押しのけるほどの執着心が渦巻いているのを俺はこの時見抜けなかった。



「あー、すまん、苺は実は他はもう全部食べちゃっててさ、それらで最後なんだよ」


アッハッハと愛想笑いをしつつ、適当に受け流そうと日本式対応術を披露する俺。



「で、では、種は!」


「あ、そう言えばそうだな。ゴメン、確保してなかったわ。でもまだ誰かが食べてないの残ってるんじゃない?」



バッと、驚くような速度で、食堂内の皆へと振り向くクレイアだが────


もう苺どころかそれ以外のものですら残っている果物は見当たらなくて。


唯一、ゆっくりと食べていた例の母娘がいたのだが、何やら異変を察知したのか、この時既に彼女らのほっぺは極度に膨れ上がっており……


母娘揃って不自然な真顔のまま、その膨れたほっぺが数回上下した後、そのほっぺに入っていたであろうものが嚥下される。


俺はこの時学んだのだ。


普段遠慮深い人たちほど、時に大胆なちゃっかりさを見せることを。



「あ…………」


クレイアは、母娘に飲み込まれていく苺に対して、震えながら引き止めるように宙に手を伸ばし……


(何このジェスチャー……そんなに苺が気に入ったのか……)


そして暫しの後、またこちらを髪の毛が翻るほどの勢いでバッと振り向く。



「嘘っ、嘘ですよね! もう無いなんて!」


「いやー、ホントに無いしっ」


「嘘です! 本当はあるのに隠してるんです!」


「いえいえ、ホントに無いですから!」


「あー、あーー、あっーーー! ああああああああっ!」


(ちょっ、なんだコレ! まさかここで魔道具屋のお姉さんの展開の再来かよ!?)



「せっ、せめてっ、種……種だけでも……」


彼女は……フラフラと異様な雰囲気で俺へと歩み寄ってくる。



「ティー! クレイアがちょっと変だぞ、おいっ!」


「わたしにまかせて! 要はあなたのおパンツを脱がせばいいのね!?」


「おっ、お前はどっからその発想が出て来るんだよ!」


「いや、ほら、だって、種が欲しいわけでしょ?」


「死んでしまえー!」



その後のことは、もうそれがしの記憶にはございません。


しかし誰もあの試食会から、俺がパンツを脱がさそうになる展開は読めないだろうよ。


あーあ、ちょっと前まであれほど食べるのを躊躇してたくせに、一度味を占めるとああなるとか……


まったくもって理不尽とはこのことだと言わざるをえないね。うん。





 


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