第81話 当選
シャクっと。
まったく躊躇も何も無く、
ヤツの歯が西瓜の果肉を食いちぎる音が聞こえた。
「ああっ! こーれは、おーいし~いわ~!」
変だな……
食べさせるために用意したのに、こいつにだけは何故か食わせるのは間違ってると思わせるような、何か得体の知れないモノを持っているティー……
それ以前に、性格が変態寄りの、死神のコスプレをしたエルフが西瓜の切り身を持ってるんだぜ……
切り身とか魚でぐらいしか使わない表現だが、ティーが持ってる時点で切り分けた西瓜は生臭さを放つ切り身という表現が的確になる。
生臭さ……いや、違うな。
胡散臭さだ……
お前だけがこの食堂の中で明らかに────胡散臭い。
というか、何故君がここに存在するのか、今更ながら俺にはわけがわからない。
神の悪戯である運命────
人生という無数の可能性の中で、そう、その殆どが普通の異世界ライフを約束してくれるはずなんだ……
実際にこの場に居る者も、普通の人と犬耳とエルフという、小説であればテンプレ。
人物的に見てもステレオタイプな者ばかり。
お前だけが、ひとり、シュールリアリズムの絵画からひょっこり抜け出してきたかのように、ここに存在するのはどうしてだ!
しかもお前以外の全員を食ってしまう程のアイデンティティーを持って!
とりあえず謝れ!
そして俺のごく普通の異世界人生録を返してくれ!
「この甘さ、この瑞々しさ、サクサクとした歯ごたえ! 口の中でホロリと崩れていく感触! これほどの果実を味わったのはわたしの長いエルフ生でも一度も無いわよ! なんなのよ、もう~!」
皆が様子見と躊躇────まあ俺とサラはティーを見ていただけだが────をしてる中、スタートダッシュを決めたティーに押されるように皆が西瓜に手を伸ばす。
おい、苺食えよ……
「おおっ……」
「凄い!美味しいですね!」
「ほお……これは……」
「おいしい~」
「美味しいです……」
大人気ですね、西瓜……
俺も大好きではあるけどな。
日本の夏の風物詩みたいなものだし。
皆に美味しく食べてもらってそれなりにいい気分ではある。
そのきっかけがティーというのは納得いかんが。
「素晴らしいのは味だけじゃないわ。水分の保有量と外皮の硬さ、これってもしかしなくても結構日持ちするんじゃないかしら? 馬車での旅なんかには丁度いいわね」
残念。観点はいいところをついてるのだが、西瓜はあまり日持ちはしない。
同じく瓜科である、冬瓜とかなら半年近くは持つらしいけど。
「この黒いのが種なのよね? フンフーン」
器用に皿のふちに並べた黒い種を、指先でいじりながら上機嫌で言ってくる。
もう既に栽培する気がマンマンなのは、俺の計画通りではあるのだが……
しかしですね、西瓜は味の当たり外れが激しいんですよ、奥さん。
だからひとつ丸ごと買って、それで微妙だったりすると次が買いにくくなるわけで。
丸ごとは高いし、味がいまいちだからといって捨てるわけにもいかないし。
スーパーで売ってる全部の西瓜をコンコン叩いてる主婦とか見ると、やめて欲しい反面、気持ちもわかるってもんです。
ま、今回は当たりを引いたようですが。
だいたい、種から栽培しても親と同じように甘くなるとは限らないのですよ。
温度とか肥料とか水加減とかの環境、俺にはよくわからん要素たちが大事なのだ。
そこら辺の難しい調整は、まあ当然のように植物に造詣の深いエルフ族に丸投げする魂胆なんだけど……




