第75話 補修
エルフのみんなが────ティーひとりのみを射抜くようなジト目で見つめている。
(そりゃ、一族の秘密とか言って、こんな条件で教えようとしてたらそうなる。自業自得。情状酌量の余地も無い)
「何よ、皆して。冗談に決まってるでしょ? わたし達を助けてくれた恩人なんだから元々教えるつもりだったのよ?」
「では、何故素直に教えようとしないんですか……?」
問い詰めるクレイアの目は真剣そのもの。
まるで悪即斬のあの人のように鋭く細められて妖しい光を放っている。
「そっ、それは……っそう、ついで。ついでよ。うん! べ、別にキメ台詞をコンプしたかったわけじゃないんだから!」
(おいおい、ティーは異世界でツンデレまで使いこなすのか! 本当に無駄にハイスペックなエルフだな。別の意味で感動した!)
「では、必要ないんですよね? ティティーリア様?」
「えーっと、うーんと……」
両手の人差し指の先同士を突き合わせたりして、目線をきょろきょろと左右に振るという、古典的な困っている人の態度を見せてくるティー。
だが────私的に、まったく助けてあげなきゃっという気にはならないな。これは。
「必要ありませんよね?」
「はあ……わかったわ、今回は諦めてあげるわよ! 今回は!」
(おお、ティーが引き下がった! クレイアやるなあ。まあもったいぶらずに教えてあげてもいいんだけど、また変なところでキメ台詞使って収拾がつかなくなって、最後は俺が尻拭いにまわるのは目に見えてる。それに、またはっちゃけそうだからな。教えてしまうとさ)
「さて、ちょっと難しいからよく聞いていてね?」
「……わかった」
「まずね、エルフ族は長命なの。これは常識よね?」
「ああ」
「そして体力はあまり無い。これも常識。でもね、実際にはそうじゃあないの────非常に高度な生命維持、その機構に生命力の多くが注がれている為に、常に体力が落ちているわけ」
「それはあれか、原始人ほど体力が高くて寿命は短く、高度な文明を持つ種族ほど体力が低くて寿命は長いって感じの……」
「あら、よくわかってるじゃない! そうなの、エルフ族は高度な精神性を持つが故に体力が低くて寿命が長いのよ!」
「しかしそれはティーにだけは当てはまらないみたいだが? 高度な精神性とかふき出しそうだぞ」
「なっ、ぬわんですってえええ!」
「軽い冗談だ。怒るなよ……」
「むぐぐ……貴方はわたしの事をきちんと理解していないようね~ 後でたっぷりとその身に教えてあげるから! 覚えていなさいよ!」
「はいはい、すまんが話しの続きを頼む」
「そうね、それで────通常の体力のあると言われる種族というのは、基本のエネルギーを主に簡易再生に使用するわ。これを例えるなら、建物の壁が壊れたときに粘土を塗りたくって補強するようなものね」
「なるほど、身体の治癒過程を建物の補修過程に例えたわけか。確かに古傷の残ったあとは手抜き補修に似てはいる……」
「そう。でも芯になる部分が失われたままだから、当然のように根本的になおるわけじゃないの。小さな傷だと見た目だけは綺麗になるけど、大きな傷は大きな破損となり、無理に補強すると醜い出来になるわね?」
「ま、柱とか芯になる部分がないのに粘土を塗りたくってもな……」
「肉体の傷においてもそれと同じ。単純な種族の身体の治癒過程ほど素早いけど手間をかけていなくて、その分、適当な再生しか出来ないわけよ」
「そう言われるとすこしカチンとくるけど、言いたいことは大体わかった」
「あら、ごめんなさい。でもエルフも体力がないと言われるからどっこいどっこいって奴ね」
「俺はそういうことはさほど気にもしないから別にいい」
「じゃあ続きね。つまり簡易再生しか出来ないものは、体力が高い、生命力が高い、そのかわりに身体構造が乱れやすいのよ。乱れにくいのもいるけど、かわりに粗末な身体構造をしている原始的な生き物になってしまうし」
「ああ、それはなんとなくわかる」
(ゾウリムシとかプラナリアとかサンショウウオとかか)
「生まれ持って簡易再生能力が高い生き物ほど、不治の病になったり、寿命が短かったりとかの弊害が出やすくなるわけ」
(そう言えば、元の世界で傷の治りが早い人ほどガンの進行が早かったりとかは聞いてはいる)
「つまり、エルフは逆にそういう部分が乱れない、長期の生命活動を見越した大器晩成型ということ────治癒過程も再生は多少ゆっくりだけれど、確実に歪みの少ない完成形に向かうの────」




