第71話 天然
「違う!」
あの戯言に対して、雰囲気が一瞬にして変わったクレイアさんの蹴りが、つっこみが、
激昂と共にティーの背後へと襲い掛かる。
(うおっ、こわっ!)
そしてそれをティーは────ひらっと、舞うようにあっさりとかわして振り返り、余裕のしぐさを見せる。
しかしわんこサラを抱いているクレイアは、頭に血がのぼったせいかバランスを考慮に入れなかったらしく、体勢を崩しかけてしまっていて……
流石にそのままだとサラも床に落ちてしまいそうで危ないので、俺は無駄にあがった格闘家の身体能力を使って瞬時に彼女らの身体を抱きかかえるように支えにいく。
「あ……」
「ふう。危ないな……」
「ごっ、ごめんなさい、わたしったら……!」
「いや、別にいいよ」
「でっ、でも、わたしったらこの娘を預かっていて、なのにこんなことを!」
「でもなんともなかったろ。もう気にするな」
「あっ…………やっ、やっぱり預かることは、で、できません! こんなわたしにそんな……資格なんて……」
(やれやれ、このエルフ娘もまたもや面倒な性格だな……はあ……)
そして俺は右手を軽く握って拳を作り、彼女の頭を小さな音が出るようにコツッっと打つ。
「あっ……」
「確かに……さっきまでの君がこの子のことを忘れてうかつだったのは事実。でもな────」
「…………」
「今の君は、この娘を返そうと思うほど反省して、責任感を強く持てているのもまた事実だ。だからこそ、俺はサラを君に預ける。文句や反論は無しでよろしく」
「うっ…………」
「わかった?」
「は、はい……」
「というかさ、どうせ治療する間だけなんだし、そんな気負うほどでもないって。リラックス、リラックス!」
「わ、わかりましたっ!」
(どう見ても、お約束のように全然わかってねえよ……このエルフ娘……)
「おーい、ティー。いつまでも遊んでないで皆を早く纏めてくれ」
「えー、いいところなのになんでやめちゃうの~」
「あ? 何言ってるんだ……」
「あっ、あの……」
「ん~、何?」
「わたしのことは……クレイア……と呼んでくれませんか……?」
「あ、うん。わかった……」
「これから、よっ、よろしくお願いします!」
「ああ」
(何がよろしくなのかは知らんが……こんなときは適当に答えておくに限る……日本式の美学にそって!)
しかし何だ……
先ほどから────やけに視線が集まっているような。
「む~」
(なんかサラが俺を睨んでるし……妙に不機嫌になってない……?)
それにエルフの男連中からの視線の圧力もかなりキツイ。
女性の方は、生あたたかい感じで緩い視線だが、これはこれで居心地が悪い。
「天然ゆるすまじ……」
「う~ん、これは見過ごせないわ。わたしってば~一応のクレイアの親代わりだし~」
「おにいちゃん……」
クレイア以外の皆が皆、俺をジト目で見てくる……
(ん? 皆して、何で俺が悪いみたいな雰囲気になってんの……? ……ねえ?)




