第70話 人徳
しかしまあ、物事は────そう簡単に良い方にのみ進むわけも無く、
「まあまあまあまあ! も~、お盛んなんだからあ~ むしろ、わたしも混ぜてほしいっていうか~」
すぐに、ただの地獄、いや、地獄の使者がやってくるわけで……
「しっかし貴方も守備範囲が広いわよね~ ねえねえ、上は何歳まで大丈夫? 千五百歳は許容範囲よね?」
「ブッ!」
噴き出したのは俺では無い。エルフのうちの数人だ。俺も噴き出しかけたが。
いや、ほんと、無理に決まってるだろが!と突っ込みたいって。
せっかくワンコ娘と和やかにじゃれあっていたのに……まったく……
サラはちょっと照れくさくなってしまったのか、
こちびを抱きしめながら、顔を赤くして恥ずかしがってしまってるし────それはそれで可愛いけどさ……
「あの、すみません…………何の用事でわたし達を集められたのか教えて貰えますでしょうか?」
俺におずおずと話しかけてきたのは、ティーにクレイアと呼ばれている、人間で言えば18歳ぐらいの容姿の娘だ。
長命種だから、実際には百歳以上とかなんだろうと推測できるんだけど。
エルフなので当然美形なのではあるのだが、それに加え、何かこう、学校内の美人ランキングナンバーワンっとか、そういう同年代の男らには近寄りがたい上品な雰囲気を纏っている感じの少し青がかかった銀髪のエルフ娘である。
とはいえ、まだ身体のあちこちにある傷とか、髪で隠されているような部分の肌の色とか色々と痛々しい部分等も多いのだが……
「あれ? ティーに聞いていないのか。皆の治療をする予定のはずだよ?」
俺がそう答えると同時にざわつくエルフたち。
「ほらな、やっぱりそうだったろう?」
「ですね……まったく、この人は……」
(まあ……大体は事の顛末がわかった気がする。だが、一応聞いてはおこう。うん…………)
「あの、ティーはいったいどんな理由で皆を集めたんですか?」
「いえ、これはあなたは知ってはいけないことなんです。長に毒されてしまわないように注意すべきで……」
ぶつぶつと呟いている姿が、クレイアさんのせっかくの美貌を台無しにしている気がする。
これで爪とか噛むともっとマイナス方向にキャラが完成すると思うんだ。
「さあさあ、みんな並んで~?」
「あー、ティー? この人数ならいっぺんに治療した方が早いから一箇所に纏めてくれ。それとこの子も一緒にな」
わんこサラも一緒にと軽く抱き上げて、ティーへとあず……っと思ったがちょっと違うなと思いなおして────
「えっと、確かクレイアさんでしたか。すみませんがこの娘を抱いていてくれませんか?」
「わっ、私がですか!?」
何か急に挙動が怪しくなるクレイアさん。
視線が俺の目とサラをとを行ったりきたりしている。
エルフだから、他種族と関わったりするのが嫌なのかなと思ったら、感じ的にはそうでもなさそうで。
むしろ可愛い小動物を見て、好きだけど躊躇って触れない感じのテンパリ方のように見える。
「で……でわ、お預かりいたします……」
おずおずと。
無駄に緊張したゆっくりとした様子でサラを受け取る。
そして完全に受け取った後の喜びと安堵の入り混じった表情は非常に魅力的で、俺もつい頬が緩くなっていってしまうという……
(これはなんとも微笑ましいな……エルフ娘の破壊力恐るべし……)
しかしやはり空気が読めない人、いやエルフがひとりは確実に居るのであって────
「ブー、ブー!」
「なんだ? ティー……」
「なーんでわたしじゃなくて、クレイアなのよー。しかも何よ~、そんないい雰囲気つくっちゃってさ~」
「それはまあ、うーん、多分、人徳と言うやつじゃないか?」
「ティティーリアさまは我らが皇族、高貴なるハイエルフである御方なのに、信じられないほどに徳というものが無さすぎます……」
愚痴を呟きながらもシュンとうな垂れるクレイア。
ティーってばハイエルフだったのかーっと、ちょっとだけ感心した俺。
そして当然のごとく、完璧に空気も読まず、本当にホントに〈一言〉多いティーがいて。
「そうなの! 皆もわたしを崇めて! わたしってばハイテンションエルフ! 略してハイエルフなのよ!?」
作者も書いてて思いました。
駄目だコイツ……っと
今日は1名を除いて、ほのぼの回でしたね。




