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第69話 日向

 

 

 

ティーの世迷言はとりあえず放っておいてだ。



「じゃあ、全員一度に回復した方がいいな」


「全員一度に相手をするのね……チャレンジャーだわ……」


「ん?」


「大丈夫よ、わたしに任せて! セッティングはしてあげるから!」


「あ……ああ、……不安だけどな」


「ここに居てよね! 皆呼んでくるからね!」


「ならそれまで彼女の相手をしてるよ……」



俺は少し離れたところに居る、既に起きてしまっているらしきワンコ娘を視線で指しながらそう言う。


「わかったわ! 逃げちゃダメよ!」



相変わらずキルバ○ンの衣装を脱がないティーのコミカルに走り去る様子を尻目に、慣れない笑顔を形作ってわんこ娘の方へと歩いていく。



「おはよう。お目覚めかな」


「おにいちゃん、おはよ……」


まだ少し眠たげな、まぶたの重そうな表情で俺を見るわんこ娘。


これはこれですごく微笑ましい……片目が開いていないことを除けばだけれどな。



「く~ん」


「こいぬさん……」


「こいつの名前はこちびって言うんだ」


「こちびちゃん?」


「ぺろぺろ」


「えへ~、くすぐったいよ~」



実に楽しそうにじゃれあうひとりと1匹が微妙にうらやましく……


そばにあった椅子を引いてきて、おもむろに腰掛ける。


しばらくわんこ娘とわんこの戯れる様子を眺めて眼福に浸る。



「っと、そうそう、今は身体のどこかが痛いってことはないか?」


「うん! へーきだよ! サラ強い子だもん!」


「サラ?」


「あっ、わたしのなまえ……」


「サラか、うん、何か上品で清楚な感じの名前だな」


「おにいちゃん、いつもそんなかんじで女の子に言ってるの?」


「何がだ?」


「もー」


「???」



(わけわからん……しかし、サラ……むしろさらね……飲み物関連ではなく、今度は食器関連で来たか。なんとちょございな……)



「ほんとはね、ほんとは……サラスって言うの……」


「なるほど、サラは略称か。じゃあ本当の名前は内緒で……これからはサラって呼んでいいかい?」


「う、うん……」



(うんうん、可愛いな~、この子。幼女神様とはまたタイプが違って癒されるわ~…………しかしサラスっというと、ヒンドゥー教の女神サラスヴァティーを彷彿させる名前だ。確か日本では七福神の弁財天だっけ。財に関わりのある神名とここで財宝を得たという事実が皮肉が利いてるわあ…………いや、まてよ、これは引っ掛けで、むしろサラスパ、そうサラダスパゲッティーを略したという線も……)



しばしの間考えにふけっていた俺であるが────気付くとサラに、服の袖を小さく摘まれてくいくいと控えめに引っ張られている。



「ん、どうしたんだ?」


出来るだけ優しめの笑顔を繕っているつもりで声をかけてみたが……



「えへ、えへへ~」


いきなり大胆に俺の胸に飛び込んできて、満面の笑顔でほっぺたをスリスリと擦りつけてくるサラ。


子供特有の体温の高さと、遠慮なくぶつけてくる好意の感情が心地よく、


おまけに、こちびまで俺の指先をぺろぺろと舐めてくる。


俺も釣られてサラの髪を撫でまわしたり、つい大きな犬耳を手で弄ったりして、感触を楽しんでしまう。



「おにいちゃ~ん、みぃみゅふふう~」


俺の胸に顔を押し付けているので、発する声も妙にくぐもった感じなのだが、それがまた可愛らしい。



(なんだ……この状況は……、なんだ、ただの天国か)





 


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