第62話 腹黒
人を纏める方法も多種多様。
例えば軍隊形式で、規律と暴力で完全に指揮権を握って独裁する形。
これは組織や権力者個人の力を保つには有効だが、長く続けていればいずれある時点で破綻する。
何故かと言うと、確実に内部に不満を持つ人間が蓄積され、いずれその鬱憤は爆発するからだ。
しかしそれを差し引いても、最も確実かつ有効な方法であるのは変わらない。
纏まりの無い一般市民を無理に纏めるのは、常にこれがベスト。
だから規律を守らない人間は〈問答無用で殺せ〉ばいい。これが確実だ。
日本人の感覚であれば非常に強い違和感を生じる行為。
しかしその違和感も本質は淡雪のようなもの。
例えば、あの有名な孫子は呉の王に招かれて、夫人達を用いてその高い指揮能力を披露する事になり、その際に命令を聞かない王の寵姫をその場で処刑してしまう。
それで孫子は王に恨まれ殺されるなどということもなく、逆に有能な軍師として雇われることになる。
また国士無双で有名な韓信も、ひたすら小さな事でも死罪にしまくる軍律を作ったことで有名である。
歴史上の有能な軍師がこの方法を軍の最重要な柱とした。
それをただのぬるま湯の中で生きてきた低劣で砂粒のような一般人ごときのモラルで覆せると思うなど馬鹿の極みとも呼べる。
とまあ、こんな感じでのたまえばすぐにぐらつく。
「孫子では~」なーんて言われちゃうと反論すら出来なくなる。
残念ながら多くの人間に認められているような権威にひたすら弱い、それもまた日本人の定めだ。
エルフ側は戦闘民族であり、規律の重要さを知っている。
故にこのような結論に至るのは、想定済みというわけだ。
だが────
当然そのような事がぬるま湯派閥の一般市民にすんなりまかり通るわけも無く。
会議室は騒然としている。
主に街の人達によってだが。
アホ女は既に青くなって震えている。
そもそもこいつらは────ここでは執行側の位置すらあやふやにされているのも気付いても居ない。
どうせただ街の人間についてきた、大勢の人間に追従するだけの、自我の欠片も無い、流されるだけの存在。
原初の神が手間をかけずに数あわせで作った人間。
縄で泥を跳ね飛ばしたときに出来た飛沫そのものだ。
だから────高ランクの魔法使い20人分以上────
この戦力を持つエルフ側が、既にこの会議の執行側にたってしまっていることを理解すらしていない。
まあエルフ全員を早々に牢から出して、この場の戦力として過激派に偏りを作り、ネタ衣装の蛇足まで絡ませて、そう誘導したのも全て俺ではあるが……
「さて、死刑云々はひとまず置いておこう。それで、その女性は以前に元次席と親しかったのか知っている者はいるのか?」
「確か、この婦人は元次席の開催する集まりに何度も出ていたはずです……」
名前も知らない街の人間のひとりが手を上げてからそう答える。
「そんな! 出ていたのはわたしだけじゃない! 皆もそうじゃない!」
うん。そうだな。
皆わかってるよ。
わかってて言ってるんだ。
わかってて黙っているんだ。
街の人達も流石に無駄に生きてるわけじゃない。
異分子は即座にイケニエとして切捨てようとしている。
人間だな。
いかにも人間らしい人間らだ。
それが奇貨に向いてしまうリスクも有するが────
この場は、膿出しには最適と言えよう。
最初から規律によって縛るのは簡単で合理的だ。
────しかしである
物事と言うものは常に矛盾をはらみ、ギリギリで進むもの。
このような、半軍隊式、半民主主義式での境界のような場所には、
単なる男性的な一直線な利益を生み出す方法では出すのが無理な利益、
その不安定に揺れ動く場、それ相応の利点がある。
つまり、俺がこの場をあえて無理やり仕切らなかったのは、
いずれ不穏な波紋を大きくさせる異分子のあぶり出し、および牽制になるからだ。
「ふーむ。関わりが深くて、なおかつこの悪魔のような男を擁護するのは、同じく悪魔に違いない────」
そして、もっともらしく大げさな溜息をついてからもう一声。
「街の人の中に裏切り者がいたとは非常に残念だが、これも神のお導き。私はまことにもって遺憾だが、涙をふるってあえて厳しい判決を下そう。皆はこの犠牲を忘れずに人としての正しい道を歩むように────」
(日本人なら馴染みのお偉いさんの詭弁風でシメてとりあえずの膿出し完了────いやホント涙が……笑い涙が止まらないよ!────そしてヌルイ人間が反論しにくくなったところで、メインの話題に入るとしようか……)
これで一連の面倒な山場がようやく終わったのです。
また文体はすこし軽くなります。
(´Д`)y-’




