第60話 詰問
「亜人なんて畜生だ。私は悪くなどない!」
「例え元が獣であろうと、神様の意思に沿い、神様の教えに従うものは真の人へと至るのです。だいいちここには亜人だけではなく普通の人も囚われているではないですか。貴方は既に心が獣のようですね。つぎは獣へと生まれ変わるでしょう……」
もっともらしいことを元次席に言い放つ俺。
もっともらしいが実は適当だ。
それこそ鍵となるもの、それを保持していれば他は適当でなんとかなる。
大体にだ、「神様の意思」とか「神様の教え」とか大事なものが欠けてるんだって。
そう、その前に「幼女」のキーワードが欠けている。
つまり正しくは「幼女神様の意思」と「幼女神様の教え」であり。
それを正しく理解するのが、世界へーわへ一直線の道なのだから……
今は牢屋にぶち込んでいた元次席を、大きめの部屋、便宜上、今後は会議室と呼ぶその部屋へと連れ出して、わんこ娘に対しての拷問行為を問い詰めているところだ。
その他にも一緒に連れてきた、前の話にて出てきた不審な人物らが5人ほど転がっている。
これはこの施設の管理をしている人員らしく、酒によって眠っていたらしい間抜けばかり。
そうそう、途中で半年ほど前にさらわれてここに来たという王都のある商会の元代表とかいう人が牢から話しかけてきて。
それで、なにやら態度も丁寧かつ理性的で、牢から出しても問題なさそうなので、ついでに会議に出席して貰うことにした。
色々と情報も聞きだせるし……
今現在、わんこ娘は少々怯えている。
俺はあくまでこの子に、元次席に対しての恐怖感を克服させるつもりなので、心苦しいがあえてそれを無視する。
こういう厳しいが必要である行為を強制せず、よくある小説のようにただ甘やかす行為を執拗に続ければ、攻略対象の異性との甘ったるい環境は一時的には作り出せるだろう……
が、俺はそんな怠惰でぬるま湯につかった様な、良い所は顔だけのつまらない女性と恋愛関係になって喜ぶほど単純でもない。
自分ひとりだけ安全なところで永久に利益をむさぼるのを考えるようになった女では、かならず前世の日本でよく居た、夫をATM扱いするような存在に成り下がる。
俺が欲しいのはあくまで、敵と戦える人間なのだ。
それが出来ない人間は、自分の立場が悪くなれば、途端に敵に媚びて敵そのものになる。
そういう人間を片時でも恋愛対象に選んでしまった人間は不幸である。
いや、むしろ不幸であると感じないからこそ、それを選んでしまうのか……
「では、まずはこの子に。当事者のひとりにこの爺さんの罪について処断を下してもらおうか」
「…………」
「さて、君はこの人をどうしたい?」
俺がそう、抱っこしているわんこ娘に優しく聞くと、その視線が元次席へと流れる。
しかし逆にジジイに睨まれて、すぐさま俺へと抱きつくように身体を寄せてきて目を逸らす。
「どうしたい?」
俺は更に聞きなおす。
少女の片方の瞳は動揺の色に深く染まって、答えは出そうにない。
そして────当然、俺はこの少女がここで答えを出せるとも思っていない。
ここで答えを強要するのは、あくまで答えを出せない、答えを出せなかったと言う強い経験が大事だからだ。
「このおじさんを今君が許してしまうと…………どうなると思う?」
「…………」
「罰を与えられなかった人間は増長する。つまり、この後も何人も君のような子供を拷問にかけるだろう……君はそれを望むの?」
「……」
「どうする?」
「……」
少女の目に静かに涙がたまる。
今はもういい。潮時だろう。
俺はしっかりと少女を抱きしめて背中をさする。
腕の中で、少女のすすり泣く声が聞こえてくる……
「救世主様……どうしましょうか……?」
「…………子供は半人前、半人前だからこそ子供だ。一人前に対処出来ないのは仕方ないだろう……」
「故に、ここは大人がかわって結論を出す。まずはあくまでこの子の分だけだが────」
「拷問をした罪には────拷問をする罰がふさわしい。これ以上ないほど公平な裁きだろう?」
(ここの文化レベルではハンムラビ法典のパクリのこれぐらいが反論も出ないし、お茶濁しには丁度いい。私的にはぬるい刑だが、どうせ本番はこれからなのだ……)




