第56話 練魔
俺はわざとらしいジト目でエルフを見る。見続ける。
「カッコいいところを見せようとして……失敗したんですね……」
「…………」
「失敗しちゃったんですね?」
「もうっ! …………貴方はいじわるです!」
(その通り、よくわかってるではないですか。これが多少話のわかる悪友なら、ねぇねぇ今どんな気持ち?と続けてやるのだが……初対面の女性には無謀か)
「仕方ないですね~、まあ冗談はこれぐらいにして」
「むぅ~…………」
グロな外見の癖に妙なところで可愛いエルフの非難の視線を無視して、俺は周囲の魔道具に目を配った。
おそらくはこれらから鎖へと抗魔術の効果が伝わっているからである。
「う~ん。壊しちゃうのは勿体ないかな。対抗策の研究もしたいし……」
(抗魔術の効果を無くすのは傍からは簡単だ。ならとりあえずこのまま壊せるか楽しい実験開始だ!)
「フオオオオオッ! クロスアウッ! 〈錬金〉!」
少し気合を入れた掛け声で、もう得意技となった水銀への錬金を彼女を縛る鎖の一本にかける。
「その呪文は……」
お茶目エルフさんの言葉は今は無視。
気合を入れた。気合は入れたが、その効果はいまいちだ。
(一応……薄くだが傷はつけられた。だがこれじゃあ時間がかかりすぎる……)
抗魔術の効果を打ち消す必要性を感じた俺は、壁の落書きをペンキで強引に上書きする行為からヒントを得て────
自分の魔力をひたすら練って、錬金予定部分に納豆のごとくネットリとへばりつかせるようにする。
「……何をしているのです?」
グロエルフさんの言葉は今度も無視────
ひたすら集中して、この部分の俺の魔力密度を高めて。
抗魔術の効果を薄れさせる。
「フオオオオオッ! クロスアウッ! 〈錬金〉!」
いっそう気合を入れて、魔力で上書きされた鎖部分へと放った錬金の魔法は、
普段の効果よりも更に強力に、先ほどは薄い傷しかつけられなかった鎖を一瞬にしてバラッと切断した。
「おおおっ! いった! これで俺は誰にも縛られないー!」
「そんな……」
「さって、次々いきますよ。動かないでくださいね」
「…………ええ」
「貴方は錬金術師ですよね? まさか自由になってはじめて会う人間が希少な錬金術師とは思いもしませんでした」
外された錠や鎖をジャラジャラと整理し、抗魔術用の魔道具と共におねえさんの異次元ポケットの中へと入れていきながら会話をする。
「希少ですか。確かに自分も錬金術師のクラス持ちは王都にひとりいると聞いたぐらいで他は知りませんね」
「私も千五百年近く生きてきて、いまだ錬金術師にはふたりしか会ったことはありません……」
「随分少ないんですね……ふーん……」
(って、この人、千五百歳かよ!)
「そのうちのひとりとはかなり古くからの友人です。錬金術に関しても結構な頻度で見せて貰っていました」
「ふむふむ……」
(あーあ、その人、いやエルフだろうな、会ってまともな錬金術ってのを教えて貰いたいなあ……こっちゃ独学だってーの……)
「しかし今の呪文は聞いた事もありませんが」
「あー、呪文はね、適当です。うん……」
「クロスアウッ!でしたか、あの力強い響きはどういう意味なのです?」
「…………そこ突っ込まないで! 突っ込んじゃだめぇぇ!」




