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第55話 茶目

 

 

 


「これはまた随分と大げさな代物しろものだな……」


「この扉自体が魔道具となっていますね。抗魔術式が施されているみたいです」



(この扉は俺の〈錬金〉でも手に負えないかも……いったいどんな危険な存在がこの中に……)



「ここに居る者はよほどの力を持つ者のようだ。接触は私ひとりでする。みなはいったんこの区域から出ているように────」


「かしこまりました。できるだけご注意を……」


「ああ、この子も頼む。今は寝ているからやさしく、起こさないように扱ってくれ」


「では、僕がその役を引き受けます」



ゾロゾロと纏め役について出て行く街の人々。


補佐役に犬耳少女も任せた。


基本、小市民の俺にはひとりの方が気が楽になっていい。



「って、鍵が合わない可能性もあった……これでコイツで開かなかったらカッコわるー……」



金色の鍵を、それらしき部分の穴へと差し込む。


しっかりと何かが作動したような手ごたえがあり、次に扉の取っ手に手をかける。


(さあて、何が出てくるのやら……神か悪魔か、それともバケモノか)



ゆっくりと、そして滑らかに開いていく扉の向こうに段々と見えてきたのは────



────傷、いや火傷のように黒ずんで醜くただれた痕そのものだった。



薄くピンクのかかったプラチナブロンドの髪の毛だけが、異様に浮き出ているように見えて。


それ以外、身体中の見えている部分に綺麗なところなど何ひとつも無く。


皮膚の全てが剥ぎ取られた死体のような。


細く黒いその身体がまるで空間に亀裂を入れているような。


先ほどのエルフ達よりも、更に更に多くの錠や鎖に縛り付けられた────


その様はまさしく恐怖映画にでも出てくるような怪物……


しかしそれで居て────


伸ばされた背筋と静かなたたずまいには────凛とした雰囲気が強く漂う……



(よくこれで生きてられる……広範囲の火傷とかは死んでしまうという話は聞くんだが)





「何故……」


(ん? 何故って?…………)


突然にその異様な存在が言葉を発したので、一瞬我を忘れて動揺してしまう。



「えと、どうかしましたか?」


(うわ、間抜けな言葉になってしまった……初めての接触なのに。……しかしこの人、いやおそらくエルフの女性か。グロな容貌のわりに案外綺麗な透き通った声をしている……)



「いえ……どうやら、少し状況が変化したようですね…………事の説明はしていただけます?」


「……わかりました……」


(何か随分理性的な女の人だ。戦闘にならなくてホッとした……)





「因果応報ということでしょうか、少し遅かった気もしますが……」


「あの元次席ですか、まだアレには報いを受けてもらっていませんけどね」


「報い……?」


「そうですね、例えば、荒野の木にでも縛り付けて、後は鳥さんたちとでも戯れて貰うってのはどうです?」


(死刑? 違います。サービスです。鳥さんと遊んで貰うだけです……ヒッチコックの映画みたいにいっぱいの鳥に群がられて、楽しんで戴くだけなのです!)



「まあ怖い……ふふっ」


「ははは……」


(ジョークもわかるのか。エルフの女性も人間とさほど変わらない……)



暫くして笑い声もやみ、このエルフのまっすぐな視線がその場の雰囲気を静かなものへと変化させていく。


多分、何か言いたいことでもあるのだろうと、俺は相手の次の言葉を待っていた。



「私は……もう少しで自力でどうにか出来る所だったのです。ですが、これも運命というモノでしょう」


「む……自力でですか?」


「ええ。────少し離れていてください」


その言葉を発すると同時に。


瞬時に周囲の魔力の圧力が高まる。


エルフを縛り付けた鎖が、ギシギシと悲鳴をあげていく。


現出するは、魔法を阻害する魔道具すらも無効にするかという程の巨大な魔力の乱流。


しかし、それはやがて穴の開いてしまった風船のようにしぼんでいき────





「えーと……すみません。やっぱり無理でした……外すの手伝って貰えますか?」





 


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