第15話 冷静
子猫様の件はうやむやのうちに、適当に宿に泊めても問題ないように話が運んだ。
食費も追加は無しだという。むしろ人間様より豪華かもしれないものまで出してもらって、なおかつおかみさんがこちらにお金を払おうとするかのような勢いだ。
子猫様のラックの数値ハンパねえー。
これが間近で感じるヒエラルキーの味かと俺の繊細なハートが少し傷ついたものだ。
それはともかく今日の予定だが。
昨日に引き続きダンジョンにいくのは決定として、その前に────
魔物の核を入れる袋を道具屋で買う必要がある。これは重要だ。
それと怪我をしたとき用の回復ポーションを道具屋で買う必要もある。これも重要だ。
それに道具屋のおねーさんの名前を聞きだす必要もある。これが一番重要だ。
なんと!全部必須の事項は道具屋関係ではないか。
偶然だな~。いやはやなんとも。
というわけで、子猫様を肩にのっけてレッツゴー!
《ごぉごぉ~》
やってきました、セーラ道具店。
昨日は文無しで躊躇して入れなかった店内へと、ドアチャイムをカランコロンと軽快に慣らして身を入れる。
「あら、昨日の子ね。いらっしゃい。可愛い猫ちゃんを連れて今日は何の用かしら?」
(おおお、なんということだ。声まで魂を奪われるほど綺麗なんだ。しかも近くで見るとますます美しい。しかも俺を覚えてくれていたとは。う……き、緊張するなあ……)
「えと、今日は、魔物の核を入れる袋を買いに来ました」
「核用の袋ね。安いものが500ルトで少し高い丈夫なものが2500ルトよ。お勧めは長く使うつもりなら高い方ね」
「じゃあ、えっと、高い方お願いします」
「み~、みぃ~」
「うふふ、わかったわ。他には何か欲しいものはないの?」
(ああ~、微笑がなんて魅力的な────もう俺は駄目かもしれない……恋に堕ちてしまいそうだ)
「んと…………回復ポーションを、お、お願いします……」
「初心者用のでよいのよね? 1個1000ルトだけれどいくつ必要かしら」
「3つ…………いえ、5つ……で」
「今のところ全部で7500ルトになるわ。これで全部でいいのかな?」
「は……い」
(オイオイ! 名前を聞くんじゃなかったか、俺って馬鹿ばかああ、へたれめええええええ)
おずおずと手持ちのルトを差し出す俺。
「はい、じゃあこれ。ポーションは袋の中に入れておいたから割らないように注意するのよ?」
「はい、あ、ありがとうございます!」
最後にお釣りを貰って────
「ふふ、またきてね」と言われたと同時に手をぎゅっと下から包まれる様に握られる。
その瞬間、俺の全身の血が逆流する。
(や、柔らかくてあったかいぞぉぉぉぉぉぉぉぉ)
しかし逆にこのことが幸いして俺は冷静になった、いや、ようやく本来の自分を取り戻せたというべきか。
自慢の灰色の脳細胞がフル回転して警告を鳴らす。
俺のいままでの不幸から考えて────こんなウマイことがおきるわけがない。
そうだ────これは何かの罠かもしれない。
あの村の皆が仕組んで俺を騙そうとしてるんだっ!
そうか、そうだったんだ!
冷静にィィィ!
落ち着いてェェェェ!
考えて見ればァァァアアアァァァ!
なーんで気がつかなかったあーーーっと思うぐらいっ!
簡単なっ!────
────事だっ!
こんなにもっ、優しくて!魅力的で!美しい人が!
────────女性────────のわけがないじゃないか!
ということは、この人は────男────
────男────男────男
────あれがついている────男
「うっ」
「うん?」
「うわああああああああーーーーーーーーーーーーーー!」
「ど、どうしたの君!」
俺は道具屋を飛び出して走り出した。
子猫様と袋を抱え、ただひたすらに。