第1話 胎動
よく小説とかで転生とか生まれ変わりとか聞くけど、俺はそういうものは信じていなかった。
死んだら人間はそれまで。赤子でもわかる真理のひとつだ。
大体にそんな誰もかれもが生まれ変わっていたら、何十代もの大昔の記憶とかが延々と残っててまったく思い出さないとか実際おかしいだろ?
まあそれ以前に記憶は脳にあるもので、生まれ変わりで前世の記憶とかがある方がもっとおかしいと思うんだが……
何が言いたいかというと……
「何で俺に前世の記憶があるんだよ!」ってことだ。
前世の記憶、俺が日本という国に生まれ、牛丼のサンボでワンコインで大盛りを頼み、そして暴走トラックに撥ねられて死んだまでの人生の記憶。
気楽な小説の中では転生なんて好物ですとか言われてそうだが、自分で経験してみるとこの記憶は今の世界、なんというか異世界っぽいところでは邪魔モノでしかなかった。
何しろ赤ん坊の頃からぼんやりとだが自我があった。そのせいで日本人としての精神ではちょっと耐えにくいようなことが次々と経験させられ……
生きてる芋虫を食べさせられたのはカルチャーショックどころではなかったよ。今では気にせず食べられるけど。
他にも笑わない子とかのレッテルをつけられ、下手に日本語の下地があるおかげで言語の習得が平均よりだいぶ遅れたり、素直に子供として振舞えないから何を考えてるかわからないとか裏で何してるかわからないとか、西洋人が日本人を、田舎の人間が都会の人間を表現するような評価をいただきまくったり、色々と酷い人生を送ってしまった。
日本人の知識を利用してチートしまくり?
まったく無理。
というか無理。
絶対無理。
ちょっと考えればわかると思うが、清く正しいヘタレ日本人が中世レベルのところに転生して幸せに生きられるかと。
ほんのちょっとでも周りと違うことをするとすぐ注目される。その注目ってのも悪い意味での注目だ。いわゆる魔女裁判のような雰囲気になる。
算術が出来れば就職できる?
就職が出来るのはお偉いさんの身内とそのご機嫌をひたすら取れるクズのみ。
むしろ高度な能力なんて見せたら、拉致されて奴隷として高値で売られて一生無賃で働かされるだけだ。
ここら辺のクズさ加減は、前世の世界となんら変わらない。
出来ることと言えば周りと同じことをするだけ。
それも力仕事ばかりで理系人間の俺にはついていけず、無理をしすぎて半病人のような状態で今まですごしてきた。
ま、その話は今は置いておいてもかまわない。ぶっちゃけ今そんなことを気にしてる状態じゃあない。
わかりやすく言うと「村八分されてて、親が行方不明で、我が家の経済状態が最悪で、体調も悪くて、夜逃げ寸前だけど逃げる場所も無い」という感じ。
もうどうしようもない。
左手に首を吊るロープがスタンバってるんだ。
あまり仲が良いとも言えない両親は、半年前に二人で王都に出稼ぎに行ったがそれ以降なんの連絡も無い。
兄貴がいたが俺が5歳のころに魔物にやられて死んだ。
つまり身寄りが一切無い。
「おわた。人生またおわった。神様つまらない人生をありがとう」
でも最後になんか美味しいものでも食べたいな。
裏手にあるみすぼらしい倉の中から売れるものとかを物色するか。
どうせ売るのも面倒になるような値段のゴミしかないんだろうけど……ね。
今までダルくて調べなかったような物資もすべて調べまくるために、荷物は全部外に出すようにする。
かなり大掛かりな物色だ。子供の頃から探検みたいに何度もしてるが流石にここまで大げさにしたことはない。
何か良い値段で売れるものでもあれば……と期待はするが、内心では殆ど諦めている。
今こうして倉庫を調べてるのも、結局は惰性みたいなものだ。
でもま、何もしないよりは気が晴れる。
そしていくつかの剣や篭手やらのあまり高価でなさそうな冒険者用の装備以外はボロ布や木製のガラクタなど大したものも見つからず、最後の荷物を調べる。
「何だこの箱、重すぎる。 いや、これ床に引っ付いてるのか」
動かそうとしたときの感覚が、重いものとしては何か違和感が感じる。
中がまるで空っぽのような感じの頑丈な木箱の蓋を開けてみると予想外に軽く開いた。
「なんですか、コレは…………」
どう見ても階段。
斜め横から見ても上から見ても階段。
多分、前と真横からだと木箱にしか見えないが。
おそらく地下室へと繋がっているんであろうと思われる階段の奥は、光ゴケでも使われているのかボンヤリと明かりが見える。
いったいその先に何があるのか。
予想その1はお宝がザックザクと。あるわけないだろと自分でツッコミいれられるが。
予想その2は親父の隠し酒蔵だが、隠す意味あるのか微妙?
予想その3は迷宮。うちの倉はダンジョンの上にたっていた! わけないよね。
危険があるかもしれないので、見つけた装備を適当に身につけてから降りることにする。
「さて、鬼が出るか蛇が出るかいっちょ行ってみるか」