〜4.処刑令嬢、鈍器を運ぶ〜
セレナ・フォン・アルカディア(5歳)
13歳の時に【聖女】の称号を授かる予定の少女であり、エルシアの妹。
適正属性は光。光属性の魔術師は少なく、100人に1人と言われる。勉強ができ、身体能力も高く、まさに聖女になるために生まれてきた天才児なのだが重度のお姉様が大好きなのであった。
(……というかダメよ。こんな国家予算級のダイヤを部屋に置いておいたら、明日の朝に見つかって即座に没収されちゃうわ!)
冷たくなった自分の指先を何度もこすり合わせ、落ち着きなくあたりを見回した。
これは18歳で破滅ルートにハメられた時のための、大事な逃走資金なのだ。
誰にも見つからない場所に、今すぐ隠さなければならない。
(みんなが寝静まった今のうちに……あんまり誰も来ない公爵邸の『地下倉庫』に隠しに行くのよ……!)
そう決意したエルシアだったが、今の彼女は体力測定マイナス100の、ただのひ弱な7歳児である。
ポシェットに詰め込んだ大人の拳サイズのダイヤは、幼児の体にとっては文字通り「ただの重たい岩(鈍器)」でしかなかった。
「うぅ……重たい……腕がもげる……っ」
深夜。
誰もいない廊下を、ポシェットを引きずりながらゾンビのように進んでいた。
数歩進んでは床にへたり込み、ハアハアと息を切らし、また数歩進む。
一晩中、命がけの隠密大移動を繰り広げた。
「よ、ようやく着いたわ……。ここに隠して……あとはお部屋に戻って寝るだけ…」
疲れ切った彼女はダイヤをそっとなでた。
夜がすっかり明け、窓の外が白み始めた頃。
エルシアは地下倉庫のガラクタ樽の裏に、ようやくダイヤを隠し終えた。
しかし、その場に力尽きて倒れ込み、冷たい床の上で泥のように深い眠りに落ちてしまったのである。
――当然、自分の部屋のベッドに戻ることなど、完全に忘れたままで。
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翌朝。
コンコン、とエルシアの部屋の扉を叩く音が響いた。
「失礼します。エルシア様、朝ですよ――」
寝ている主を起こしに来たメイドが、そっと入室する。
しかし、ベッドの上はもぬけの殻でエルシアの姿はどこにもなかった。
「――公爵様、大変です! エルシアお嬢様がどこにもいらっしゃいません!!」
息を切らしたメイドが慌てて食堂に走り込んできた。
朝食を優雅にとっていた実父のオルブライト公爵は、その報告に思わずお茶を噴き出す。
その公爵の隣には、なぜか一睡もしていない様子で、目の下にクマを作りながらも不敵に微笑む5歳の次女、セレナが座っていた。
「慌てないでください。お姉様は、国家予算……ゲフンゲフン。きっと深いお考えがあってのことです」
ニコッと笑うセレナの笑みには何か隠しているように思えた。
一方その頃。
当のエルシアは、公爵邸の地下にある、誰も使っていない暗い倉庫の片隅で――
「すぴー……すぴー……」
国家予算級のダイヤを贅沢な枕代わりにしながら、幸せそうに眠っているのだった。




