第9話 別れよう?
今回の失態は、完全に俺の油断によるところが大きい。
金沢先輩と疑似交際を始めるようになってから、俺の頭の中でりりあへの警戒がほとんどなくなってしまっていた。
今までの俺なら、絶対にあり得ない失態だ。
一人で待ち合わせ場所まで移動する時なら、エントランスホールではなく裏口を選ぶべきだった。
ちなみに、そもそもりりあがなぜ俺の動向に気づたのかは深堀りしない。
こういったことは昔から何度もあったし、怖くてとてもではないが聞けない。
「それで、今日はどんなデートをするの?」
横を歩くりりあが上目遣いで俺の顔を覗き込む。見てくれだけは良いので、絵面だけ見れば誰もが羨む光景だろう。
だが、相変わらず瞳のハイライトは消えたままで、正面から対峙する俺にとっては恐怖でしかない。
「まあ、ファミレスで軽くおしゃべりする感じかな」
本当は俺も詳しいところは何も聞いていない。
わかっているのは、牛久先輩を紹介してもらえるということだけ。
ファミレスで、というのはそこから勝手に俺が想像した答えに過ぎない。
「ねえ、見心。今日って何回目のデート?」
「休日にするのは初めてだな」
放課後一緒に帰ったりするのをデートと位置付けるのなら、既に何回か行っているが、その辺が曖昧なので初の休日デートと答えておく。
「てか、どうしてそんなこと聞くんだ?」
「彼女さんのことを知りたいから」
今の質問で何かわかることとかあるのか?
「ねえ、見心。絶対に別れた方がいいよ」
「えっ、いや。何でそうなる?」
「だって、休日の初めてのデートでファミレスだなんて、大切にされてない証拠だよ」
なるほど。りりあ的には、休日の初デートは特別なものにしたいと。
ファミレスで適当に済ませるのは、俺の事を何とも思ってないからだと。
人の価値観的によるところが大きい部分ではあるが、まあ共感できない話ではない。
俺が相手を休日の初デートに誘うとしても、もう少し雰囲気のあるレストランとかに誘いたいと思う。
とはいえ、どうしたものか……
そもそも、今回はデートではないんだよな……
何なら彼女に別の女の子を紹介してもらうとかいう、普通なら考えられないようなイベントなのだ。
「ねえ、見心。別れよう?」
りりあが俺のジャケットの裾を掴む。
「そんな女、絶対に見心を不幸にするよ」
それ、君が言う?
というか、これは少々マズい。
「見心、スマホ貸して? 今すぐ、彼女さんに別れようって私が伝えるから」
これは、俺が何を言っても何も聞き入れそうにない。
邪険にしてはいけないのだが、ここは少し強引に行くしかなさそうだ。
「ねえ、見心。お願――」
「悪いな、りりあ。俺、急いでるから」
「――っ、見心……っ!」
りりあが怪我をしない程度の力で拘束を解くと、俺は急いで最寄り駅まで全力ダッシュをかますのだった。




