第5話 幼馴染
仙川りりあは、同じマンションに住む同い年で、幼少期から一緒に過ごすことが多かった。俗にいう幼馴染だ。
運動神経が人並みという点を除けば、学校のテストの成績は常に上位だし、周囲に人も多く社交的で、何より容姿が優れている。
癖のない長い亜麻色の髪に、パッチリとした二重が印象的な幼さを含んだ顔立ち、そして守ってあげたくなるような華奢な身体。
学校のアイドルと表現するにまさしく相応しい美少女。それが仙川りりあ。
しかし、それは表向きのことでしかない。いや、正確にいえば俺以外にとってはというべきだろうか。
りりあは俺に好意的なものを抱いている。ただし、ただの好意ではなく、異常なまでに俺を独占したい強い欲望を含んだもの。
その欲望による行動によってもたらされる被害は毎回甚大で、必ずといっていいほど俺だけでなく、周囲にも被害が出る。
その最たるものが姉貴であり、姉弟という関係上、必然的に一緒にいることが多い姉貴に対してりりあは常に攻撃的で、一度顔を合わせれば最低でも10は毒を吐く。
親同士が知り合いである都合上、姉貴も手を出すことができず、その結果、溜まったフラストレーションが俺に還元されることになる。
他には、俺が地味目な女子(俺のタイプ)と仲良くしようものなら、その子に嫌がらせをし、俺と関わりを持たなくなった途端それがなくなるといった状況を引き起こす。
そのせいで俺は、本来かかわりを持ちたいと思っていた美少女以外の子を避けなければいけない状況を強いられた。
これだけ聞けば、りりあをヤンデレだと評することもできるだろうが、どちらかといえばモラハラ気質といった方が正しい。
ヤンデレは俺が嫌がれば引いてくれる(※ただし、引いた後が恐ろしい)が、りりあは俺が嫌がっても平気で自分の独占欲を優先する
今でも忘れない。失恋した同級生を慰めているときに横から俺の腕に抱き着き、周囲からヘイトを向けられ困っている俺を他所に、満足そうに浮かべていた笑顔は。
「見心。隣の人は、誰?」
俺を独占できないときに見せるハイライトの消えた瞳で、りりあが金沢先輩を見る。
恐らく、これは姉貴が仕組んだ状況だ。りりあと遭遇しないよう、俺はエレベーターや階段の使い分け、時間帯の調整など、あらゆる手を使っている。
今の時間帯だって、普段ならりりあがいないはずのだ時間なのだ。それを踏まえると、姉貴がりりあに俺たちが家を出る時間を教えたしか考えられない。
意図としては、ここで彼女ができたとりりあに直接公言しろといったところか。
俺に彼女ができると、それも相手が自分と同等の美少女というのは、りりあにとって面白くない展開のはず。
一番嫌いない女の名前を挙げろと言ったら、間違いなく「仙川りりあ」と返すであろう姉貴はそう考えた。どうりで機嫌が良いわけだ。
「りりあ。彼女は金沢真佳先輩。今、俺が付き合っている人だ」
「付き合ってる……ってことは、彼女さん?」
冷たい冷え切った声色の問いに、俺は小さく頷く。
「ふ~ん。奇麗な人だね」
「だろ? だから、今日は悪いが一緒に駅まではいけない」
「――っ!?」
りりあの表情が、一瞬だけ強張る。
親の教育方針で、りりあは女子高に通うことになり、今は別々の学校へ通っている。
普段、運悪く遭遇してしまった時は、一緒に最寄り駅まで行くのだが、今は隣に金沢先輩がいる。
彼女との朝の投稿を邪魔しないで欲しい。りりあの反応を見る限り、そういう俺の意図がしっかり伝わったようだ。
「そっか、それなら仕方ないね」
「悪いな」
「うんん。あっ、私、家に忘れ物してたみたい」
そう言って、りりあは別れの言葉も告げずに、エレベーターへと乗り込んでしまう。
普段なら、何を言っても絶対に引かないりりあが、あっさりと身を引いた。姉貴の言った通りだ。
「彼女、かなり面倒くさそうね」
扉が閉まったエレベーターを見つめる金沢先輩の言葉に、苦笑を浮かべる。
「もしかして、事情とか聞いてます?」
「叶さんから少し」
「なら、わかると思いますけど、りりあには気を付けてくださいね」
「大丈夫よ。あの程度の子なら」
「おお、それは心強い」
金沢先輩クラスになれば、同性絡みのトラブルなど日常茶飯事なのだろう。
そして当然、その対処法もよく心得ているというわけだ。
これは姉貴が言った通り、本当にりりあの問題もなんとかなるかもしれない。
「何ニヤニヤしてるのよ」
「おっと、すみません」
ストレスから解放された素晴らしい未来を想像して、つい喜びが顔に出てしまった。
「しっかりしなさいよ。これから大変なんだから」
きっと、金沢先輩的にはこれから男避けとして面倒なことが押し寄せることを危惧しての忠告なのだろう。
しかし、金沢先輩はわかっていない。俺にとってその程度の事は、美少女三人に苦しめられることに比べれば全く苦ではない。とはいえ――
「とりあえず、絡んで来そうな奴のこと、教えてもらっていいですか?」
対策を練るに越したことはないので、初登校の話題はこれで行こうと思います。




