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俺の美少女コンプレックスは治らない  作者: 9bumi


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第4話 約束の効果

 提案を受け入れると伝えると、金沢先輩から電話がかかってきた。


「まずは、ありがとう」


 ファミレスでの俺の態度を考えると、もう少しリアクションがあってもいいと思うのだが、金沢先輩の声色は落ち着いていた。


 姉貴にコンタクトを取った時点で、こうなることがわかっていたかのようだ。


「それで、まずは何をすればいいんですか?」


 これが正真正銘の恋人関係なら、他愛のない話を通話越しに楽しむのだろうが、生憎とそんな関係ではない。

 今、俺に求められているのは、金沢先輩が望むような彼氏役を演じることだけだ。


「とりあえず、明日から一緒に学校へ行きましょう」

「――わかりました」


 付き合う以上、一緒に登校するのは自然なことだし、男避けという目的を考えれば交際アピールは必要だ。

 それに伴って、俺に降りかかって来るであろう妬みそねみを考えれば、気が重たくなる話だが。


「待ち合わせはどこにしますか?」

「明日はあなたの家に迎えに行くわ」

「別にそこまでしてもらわなくても」

「叶さんに直接お礼が言いたいのよ」

「なるほど」


 姉貴は礼儀作法云々に結構うるさいところがある。特に部活の上下関係にはかなり厳しく、それでいて実力もあったので、姉貴の後輩たちが涙目になっていたのをよく覚えている。

 その点を考慮してか、それとも金沢先輩の元からの性格なのかはわからないが、感謝を伝えたいということなら、これ以上こちらから言うことは何もない。


「今から演技のレッスンだから、詳しいことは後で連絡するわね」

「わかりました。レッスン、頑張ってください」

「ありがとう。じゃあ」


 最後に少しだけ恋人っぽいやり取りをしてから、通話を終える。


「そういえば……」


 この関係って、いつまで続ければいいんだ?


 かなり大切なことだが、有耶無耶のままだ。


「男避けが、必要なくなった時か……」


 恋愛にかまけている暇などない。


 金沢先輩の言葉を受けるなら、本当に好きな人ができたというのは、条件に該当しないだろう。


 そう考えると、女優として名が売れて、事務所からの支援が手厚くなった時から?


「それって、一体いつになるんだ……」


 とりあえず、その辺もちゃんと認識を合わせないとな。


 そう思いながら、そろそろ夕飯が用意されているであろうリビングへ向かうのだった。


         ※※※


 翌朝。俺はいつも通り朝6時ちょうどに目を覚ます。


 曜日を確認すると水曜日、今の俺にとって最も憂鬱な曜日だ。


 俺は両頬を軽く叩いて気合を入れ、ゆっくりと部屋を出る。


 毎週水曜日、朝一の講義を取っている関係で姉貴は早起きを強いられる。

 どこかで先述していると思うが、姉貴はとにかく寝起きが悪い。

 姉貴が高校生だった頃は、平日すべてが俺にとって恐怖だった。


 恐るおそるリビングへ向かうと、ソファーで足を組む機嫌の悪さ全開の姉貴と目が合う。


「お、おはようございます。お姉さま」


 普段ならこの後、最低でもヘッドロックが待っているのだが――


「おはよ。あと、それ本当にキモいから」


 そう言っただけで、姉貴はソファーに座ったまま何もしてこない。

 

 約束がしっかりと効力を発揮している。


「あれ……?」

「――っ、ちょっと、何で泣いてんのよ!」


 胸の内から熱いものがこみ上げ、ツーと涙が頬を伝う。


 どうやら、姉貴が何もしてこないという事実が、想像以上の感動を俺にもたらしたらしい。


「いつまでボケっとしてるのよ。早く拭きなさいよ、それ」

「あ、ああ……」


 姉貴の言う通り、スウェットの袖で涙を拭う。


「悪かったな。つい感極まって」

「何なのよ、まったく……それで、金沢真佳はいつ来るの?」

「ああ、それなら7時だってさ」

「ふ~ん。じゃあここを出るのは7時10分くらい?」

「多分、どうしてそんなこと気にするんだ?」

「あんたには関係ない」

「さようですか」


 何か含みのある感じだったから気になるが、聞いたところでまともな答えは返ってこないだろう。


 それから朝食を取って学校に行く支度を終えた頃、インターホンが金沢先輩の到着を知らせてくる。


「今回はありがとうございました。叶さん」

「別に大したことはしてないわ」


 玄関を上がったところで、金沢先輩が姉貴に頭を深く下げる。

 対する姉貴は、さも当然という態度だ。


「約束はちゃんと守りなさいよ」

「はい」

「約束って……?」

「あんたには関係ない」


 またそれかよ。まあ、いつものことだけど。


「それより、そろそろ出る時間でしょ」

「ご両親には……」

「それは別にいい。それより、ほら早く」


 どうしてそこまで俺たちを急かすのか。

 やはり、引っ掛かる。しかし――


「朝早くに失礼しました。行きましょうか」


 金沢先輩は長居するべきではないと判断したようで、先に玄関を出る。


「愚弟」

「何だよ」

「いってらっしゃい」

「――っ、お、おう」


 こんな風に送り出されたのはいつ以来だろうか。

 それに、さっきまでの機嫌の悪さが嘘のように、機嫌がいい。


 本当に、何なんだ……。


 姉貴の様子に気味の悪さを覚えつつも、金沢先輩を追って家を出る。


 そして、エレベーターでエントランスのある1階まで降りた時、俺は姉貴の狙いを悟った。


「おはよう、見心。隣の人は、誰?」


 俺を現在進行形で苦しめている美少女の一人。


 幼馴染の仙川(せんかわ)りりあが、ハイライトが消えた瞳でそう言った。




 




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