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神の舌を持つOLの異世界クッキング〜偏食の皇帝陛下を極上ご飯で餌付けしたら、胃袋も心も掴んで溺愛されました〜  作者: 黒崎隼人


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第3話「帝都の喧騒とそびえ立つ白亜」

 深い森を抜け、アルフが手配した馬車に揺られること数時間。車輪が硬い石畳を叩く規則的な振動が、ミクの足の裏からじんわりと伝わってくる。

 窓のすき間から外を覗き込むと、そこには見渡す限り続く巨大な街並みが広がっていた。赤や青の鮮やかな布の天幕が張られた市場が立ち並び、行き交う人々の活気ある声が空に吸い込まれていく。荷車を引く不思議な形の獣や、見たこともない色の果物を山積みにした露店が次々と視界を通り過ぎた。

 風に乗って、香ばしく焼けた小麦の匂いや、鼻の奥をツンと刺激する未知のスパイスの香りが車内に入り込んでくる。


『本当に、違う世界に来ちゃったんだ』


 ミクは自分の膝の上でぎゅっと両手を握りしめた。東京の雑踏とはまったく違う、色濃く熱を帯びた空気が肌に触れる。後戻りできない場所に来てしまったという不安が胸の奥を締め付けるが、それと同時に、料理人としての好奇心が小さな炎のようにチロチロと燃え上がっていた。


「ここが帝都のメインストリートだ。これだけ人が多いと、馬車もなかなか進まないな」


 向かいの席に座るアルフが、窓の外を見やりながら苦笑いを浮かべた。彼の銀色の鎧が、差し込む陽の光を反射して白く輝いている。


「とても大きくて、綺麗な街ですね」


「ああ。皇帝陛下が代替わりしてから、これでも随分と豊かになったんだ。だが、その陛下ご自身が今は倒れる寸前で……」


 アルフの表情がスッと曇り、彼は膝に置いた手首を強く握りしめた。主君を心から心配するその痛切な様子に、ミクは思わず姿勢を正す。


「あの、皇帝陛下は具体的にどんな症状なのでしょうか」


「三か月ほど前から、突然固形物を受け付けなくなったんだ。食事の席につくだけで顔色が悪くなり、無理に口に運んでもすべて吐き出してしまう。今は宮廷魔術師が作った、苦くて泥のような栄養薬を水で流し込んでいるだけの状態だ。あんなもの、人間の食うもんじゃない」


 アルフの言葉を聞いて、ミクの脳裏に冷たく味気ない食事の風景が浮かんだ。食べる喜びを奪われ、ただ生きるためだけに不快なものを胃に流し込む苦痛。それは、美味しいご飯で人を笑顔にしたいと願うミクにとって、何よりも悲しい光景に思えた。


『私にどこまでできるかわからないけど、少しでも温かいものを食べてもらいたい』


 ミクが決意を新たにしていると、馬車はゆるやかな坂道を登りきり、広大な広場へと滑り込んだ。


***


 目の前にそびえ立っていたのは、抜けるような青空を切り裂く白亜の王宮だった。太陽の光を浴びて真珠のように滑らかな光沢を放つ巨大な城壁と、いくつも連なる鋭い尖塔。門の前に立つ重装備の兵士たちが、まるで彫像のように微動だにせず前を見据えている。

 あまりの威圧感に、ミクは呼吸を忘れてその圧倒的な光景を見上げた。


「着いたぜ。ここからは歩きだ」


 馬車を降りたアルフに促され、ミクは門をくぐった。兵士たちはアルフの顔を見るなり道を開け、二人を深く静かな王宮の内部へと通す。

 磨き上げられた大理石の床を歩くたび、硬い靴音が長い廊下に反響する。壁に飾られた美しい織物や、天井から下がるガラスの照明を横目に見ながら、ミクはアルフの背中を急ぎ足で追いかけた。

 奥へ進むにつれて、冷やりとしていた空気が少しずつ湿気を帯び、微かな熱気を孕んでくる。同時に、様々な食材が煮える匂いや、油のはぜる音が遠くからかすかに聞こえ始めた。


「この先が、王宮の第一厨房だ。まずは料理長に話を通さないとな」


 アルフが重厚な木製の両開き扉の前に立ち、大きく深呼吸をする。ミクもまた、これから始まる未知の厨房での戦いを予感し、胸に手を当てて小さく息を吐いた。

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