金髪君とロリータちゃん
俺は今友人とあるゲームをしていた。
クッソー!こんな時に限って見つからない。あまりにも見つからないのでその辺にいた女に話しかけてみた。
「あの…。」
「何?」
げ!
たぶん俺と同じくらいの年齢だが、あまりのケバさと香水のキツさが耐えられなかった。
「す、すみません、人違いです!」
すぐさま走って逃げた。ああ、もうすぐ1時間が経つ…。するとゲームの相手から電話が鳴った。
「修太くーん、もう1時間たったよ〜。」
「はいはい、わかったよ!!」
ゲームに負けたと思って電話を切り、待ち合わせ場所へ向かった。
待ち合わせ場所へ着くと、ゲームの相手の傑は1人で立っていた。
「お前、女連れじゃないのか?」
「いや、実は俺もダメでした!」
「なんだよ!結局ダメなのかよ!」
「だって俺、いつも声かけられる方だもん。かけるのは慣れてないんだよ。」
俺たちが何をしていたかと言うと、話は1時間前に遡る。
「修太、金髪ってモテないんじゃない?彼女ができない理由はそれだよ。」
「いや、関係ないだろ。それなら茶髪はモテるのか?」
「モテるよ、俺がモテてるじゃん。」
確かに傑はモテるが、髪の色のせいなのか?
その話からだんだんと金髪と茶髪はどちらがモテるのか喧嘩になり、1時間以内にナンパに成功したら勝ち、というゲームをすることになった。
今思えばかなり馬鹿なことで争ったなと思った。当たり前だが髪の色で決まるわけがない。
「1時間無駄にしたな。もう何か食って帰ろう。」
夕方の5時を回ろうとしていた。居酒屋の営業が始まる頃なので適当に空いている店に入った。
俺、矢谷修太と友人の傑は21歳のフリーターである。もちろん彼女はいない。俺は一人暮らしで本屋でバイトしながら過ごしているが、傑は実家にいる。傑の家は金持ちなので大した危機感はなく個人経営のカフェで働いているのだが、顔のよさだけで女の集客率が高くなっており店長から気に入られている。親も傑に甘いし、傑はきっと苦労を経験せずに死ぬのだろう。
「修太、またナンパゲームしようね〜!」
「しねえよ!ひとりでやってろ!」
居酒屋から出て傑との分かれ道になった。周りの通行人に見られたが、酔っていたのであまり気にならなかった。
「ねえ、ちょっと時間ない?あるよね?」
「ありません…。」
??
明らかにヤバそうな男2人が若い女に絡んでいた。
「いやいや、こんな時間に一人でいて時間ないってことないよね〜?」
「ほ、本当にないんです、親が迎えに来るんで待ってるんです。」
若い女は明らかに怖がっていた。親が迎えに来ると言っても既に呼んだのか呼ぶ前なのかは分からないし、その前に連れ去られたらまずい。
若い女と目が合ったのでそのタイミングで俺は割って入った。
「遅くなってごめんねー、迎えに来たよ!さあ帰るぞ!」
「お、おい!お前が親じゃないだろ!横取りすんなよ!」
「親じゃなくて兄貴だよ!さあ、帰るぞ!」
手を掴んで速歩きをした。チンピラのほうも面倒くさくなったのか追いかけてこなかった。
「ここまでくれば大丈夫だろ。」
さすがに暗い所では危ないのでコンビニの中に逃げた。
「あの…ありがとうございました。」
若い女にはきちんと頭を下げられた。黒髪で清楚な女だった。助けた奴がこんな金髪でがっかりだろうなぁと思いながら見た。
「いや、いいんだよ。親は呼んだ?」
「実は今から呼ぶところだったんです。」
女はスマホを出した。
「あの!LINE教えてもらえませんか?お礼がしたいんです!」
え??
「いや、その…。」
「お願いします!本当に危なかったから…。」
「……今日はスマホ忘れちゃったんだ〜。それに俺、彼女いるから!」
嘘を言ってコンビニから出た。突然のことで戸惑ったのだ。俺は傑と逆でいつもナンパをする側だからなぁ…。
翌日、酒が抜けた状態でバイト先の本屋で仕事をしていた。あーあ、やっぱり昨日LINE教えとけばよかったなあ…。金髪の俺だと清楚な女と繋がる機会はなかなか無いからな。
レジ打ちをしていると、参考書や小説、漫画を買っていく学生たちが数人いた。俺も真面目に勉強してたらもっと違う世界があったのか…。
「お兄さん…。」
女子高生相手にレジを打ってると声をかけられた。
「どうしました……あ!」
昨日の若い女だった…。昨日は私服だったから気付かなかったが、高校生だったのか。
「やっぱり!昨日のお兄さんですね!」
「桜子、誰?」
「昨日私を助けた人だよ。」
友人が楽しそうに俺たちを見た。この子の名前が桜子ということだけはわかった。これが社会人同士なら運命的な出会いだったが、女子高生となるとさすがに困る。やはりLINEを教えなくてよかった…。
「お兄さん、また来ますね!」
高校生の時に社会人と付き合う同級生を羨ましく感じたことがあるが、自分が社会人になってしまうと高校生と付き合う社会人なんて悪いイメージしかない。あまり来てほしいとは思えなかった。
だが、桜子はほとんど毎日来た。レジにいなくても店内を歩き回って俺を探しに来た。仕事中だからとあしらっていたが、次の日にも諦めずに来てしまう。
ある日、土曜日の仕事の日もやはり桜子は来た。だが、いつもと雰囲気が違ったので最初は誰か分からなかった。ピンクでフリフリのドレスみたいな服を着ていた。祭りのコスプレでもしているのかと思ったが、私服と言われた。
「あのさあ、そろそろ店長に怒られそうだから来られると困るんだけど。」
店長がそこまで見張っているわけではないし、お客に質問をされたことにすればいいのだが、毎回同じ人間だと知り合いが雑談しに来ているものと思われてしまう。
「デートしたら諦めます。」
「いや、さすがに社会人と高校生は駄目だって。」
「それならまた明日も来ます。」
はぁ…それも困るんだよなあ。適当にあしらってても変わりそうにない。ここまで来られるなら、きっちり話をしないといけない。
「あのさ、俺のバイトあと1時間あるんだよね。その後なら時間取れるから。」
桜子の顔色が変わった。
「嬉しいです!待ってますね!」
うちの本屋はショッピングモールの一角なので時間は潰せるだろうけど、あの服装のままどこに行くのやら…。
そして1時間後、バイトの退勤時刻になった。出入口へ向かうと、目立つ格好なので桜子がいるのはすぐに気付いたが、別の男と話していた。駄目です、とか約束があるとか話している。
「お兄さん!」
俺を見つけた途端に走ってきた。
「なんだよ、もう来たのかよ。」
男は文句を言いながら去っていった。
「あいつは誰だ?」
「ナンパしてきた人なので知りません。」
「隙があるんだよ。だから男に絡まれるんだよ。」
「でも、だからこそお兄さんに会えたんですよ。」
俺がこうして相手にしないからいいものの、変な男ならとっくにトラブルになってるぞ…。
その後、傑のいるカフェに向かった。正直、傑を見たらそっちに気がいくのではないかと思ったのだ。元々モテる男にファンが1人増えたところで日常のことだ。傑だって困ることはないだろう。
「いらっしゃいませー。って、修太!どうした?」
「今度説明するから、とにかく入れてくれ。」
傑がいるからといっても俺はこのカフェに来る機会がなかった。俺みたいな男がとても1人で入れる店ではない。それもあり傑は驚いていたが、たぶん俺よりも桜子に驚いたのだ。席に着いてからも桜子は相変わらず俺に興味津々の様子。俺と傑を同時に見たらほとんどの女は傑の方に気がいくんだが。
「そういえば、お兄さんは修太さんっていうんですね。あの人はお友達ですか?」
「友達だよ。あいつ、イケメンだろ?」
「ですね。モデルさんみたい。」
「あの日さあ、俺とあの男でナンパゲームしてたんだよ。どっちが女の子を先に掴まえるかってね。」
「楽しそうですね。どっちが勝ったんですか?」
楽しそうなのか?というか引かないのか…。
「引き分けだったよ。どっちも掴まえられなかったんだ。」
「私ともう少し早く出会えてたら修太さんが勝ったのに。」
いや、そんなことはどっちでもいいんだが。天然なのか?俺を諦めてほしくてこういう話をしてるんだけど、なかなか桜子は引き下がらない。
「修太さん、ナンパゲームしてたってことは彼女いるのは嘘ってことですよね?」
「彼女?今は彼女はいないぞ。」
「やっぱり!私が最初にLINEを聞いたら彼女いるからって断ったじゃないですか。」
あ!そうだった。断るために咄嗟に言ったんだ…。それを押し通しとけばよかった。
「彼女いないなら大丈夫ですよね。」
「いや、高校生と社会人はまずいんだって。」
「そんなこと無いです。友達でも社会人と付き合ってる人いるし。」
そのヤバさに気づくのは社会人になってからなんだよなぁ…。
結局、話し合いをしてみたところで桜子が俺を諦める様子はなかった。バイト先に毎日来られるのも困るので一応LINEを教えた。今はよくても、俺みたいな男ならそのうち飽きるだろうと思ったのだ。
翌日、傑に呼ばれた。何故か普段行かないファミレスに呼ばれたが、俺も桜子のことを相談したかったのでちょうどよかった。
「あの日の帰り道だったのか〜。もう少し早ければ修太が勝ってたのにね。」
桜子と同じことを言われた。
「そういう問題じゃないだろ。高校生に付きまとわれて困ってるんだよ。」
「いつか卒業するんだからよくない?そんなに修太が真面目とは思わなかったよ。」
真面目というよりも、女子高生に魅力を感じないのだ。しかもあの服装…。一番男ウケしないやつだろ。
「なんかロリータファッションってエロいよね。」
「ロリ…?」
「その子の服装の名前だよ。」
ロリータファッションっていうのか。ロリータと付いているので余計に嫌な感じがした。
「子供っぽい服装の子が脱いでみたら大人びてた、ってよくない?」
「なんでそんなに変態目線なんだよ。」
解決に進まない。傑に相談したのが間違いだったか…。
「そういえばさあ、修太とそっくりな男を見つけたんだよ。これ見て。」
傑は音楽系の雑誌を持っていた。
「数ページめくると…ほら!」
傑の言うことなんて当てにならないと思ったが、本当に俺に似ていた。金髪で俺よりも髪は長かった。
「最近デビューしたミュージシャンだって。名前は、中林ケイタ。名前までは似てないな。」
「似てたら困るだろ。」
あまりタレントには興味がないのでまさか俺に似た奴がいるとは知らなかった。というか、俺と似てる芸能人がいるなら俺はもう少しモテてもよくないか?
「ミュージシャンなんて職業でモテてるようなもんだよ。修太も楽器弾いて歌ったらモテるんじゃない?」
「音楽の才能なんかねえよ。歌も対してうまくないし。」
なんだか自分で言ってて虚しくなった。俺は何の特技もないんだなぁ…。
「お待たせしました。」
注文していた料理が来た。いつも居酒屋だから久々に定食を注文した気がする。女の店員が持ってきたが、わざわざ顔を見ることはなくご飯だけ受け取った。だが、傑がその女が奥に入って行くまでずっと眺めていたのが気になった。
「なんだ?あの店員と知り合いか?」
「いや、そうじゃなくて。ちょっとね…。」
ちょっとね、と言われたが、俺は察した。
「え?まさか好きとか?」
「うん、まあね…。美人だし。仕草もきれいだしね。」
「いつからだよ?」
「3ヶ月前くらい。」
「声かけたか?」
「まだ。」
珍しくノリが悪い。これはたぶん本気で惚れてるな…。というかあの店員見たさに今日はここに呼ばれたのか。
「モテてもこういうときは何もしないんじゃ勿体ないだろ。」
「俺は修太みたいに声をかけ慣れてないんだよ。」
「またそれかよ。」
傑はモテるが、肝心な時にナヨナヨしてるからいい女とくっつけないんだ。だが、俺が世話を焼いたところでうまくいくわけではないのでそれ以上何も言わなかった。
その後から桜子はやはりしつこくLINEをしてきた。仕事は何時に終わるのか、休日はいつかとあれこれ聞いてくる。傑みたいに社会人が相手ならなぁ。
「矢谷君、最近あの子来ないね。」
休憩室にいると、女の先輩に言われた。
「え?見てたんですか?」
「みんな知ってるよ。あの子毎日来てたんだもん。もしかして彼女?」
「いやいや、違うんですよ。つきまとわれてるんですよ。」
「やばくない?警察呼ぶ?」
「それはさすがにやりすぎです。」
最終手段は警察だが、男の俺がそこまでするのはカッコ悪いと変なプライドがあった。実を言うと困っているとは言いつつも、女から追いかけられることが今まで無かったので突き放すのがちょっと惜しくなってきたのだ。
「でも、なんで付きまとわれてるの?」
俺はあの日に桜子を助けたことを説明した。
「あらー、それは王子様に見えちゃうわね。助けた次の日に偶然の再会なんてなかなか無いもんね。」
「俺、どうしたらいいんでしょう?」
「うーん…そうねぇ。そもそも矢谷君はどうしたいの?」
「どうしたいって…。え?俺どうしたいんだっけ?」
「あのさ、次ここに来たら私が追いかえすよ。たぶん同性が怒った方が効果あるから。」
「えっ、ちょっとそこまでは…。」
な、なんで俺は止めてるんだよ…。
「ふーん、矢谷君もなんだかんだで嬉しいのね。しばらくは何もしないであげるから本当に困ったら言ってね。」
先輩はニヤニヤしていた。俺の反応を見るために言ったのか…。だか、とにかく相手が高校生というのがネックなのだ。傑は当てにならなかったが女の先輩ならいい意見が聞けるかも。
「それって世間体を気にしてるだけでしょ。いつか卒業するんだし、相手の方から来たんだから別にいいのよ。」
俺って世間体を気にする男だったのか。身近な人に言われてしまうとなんだか気にしてることが小さいことのように思えてしまった。
悩んだ末に、俺は1回デートしてみることにした。それで良ければ先を考えればいいし、桜子だってそうでもしないと俺のことは分からないはずだ。高校生なので酒は飲めないし、夜遅くまで遊ぶわけにもいかないので早めに帰らねばならない。でもこちらから好きになった女ではないので、それで1日終われるなら気が楽だ。
いざデートしよう、となると引かれるかもと心配にはなったが、桜子は大喜びだった。変なスタンプをたくさん送ってきたが、デート経験が今までないのだろうと思ってスルーした。
「修太さん!」
デートの日、やはり桜子はロリータファッションだった。あぁ、相手の服装のことまでは頭がまわらなかった。周りにジロジロ見られている。
「まさかデートしてくれるなんて!嬉しいです!」
「落ち着け!みんな見てるから。」
桜子もだが、俺も金髪だから、この組み合わせのせいで余計に目立つのかもなぁ…。
最初は映画を観ることにした。日頃観ることはあまりないが、学生時代のデートは映画に行くことが多かったからである。その頃は長続きしない恋愛ばかりしていたので特にいい思い出は無いのだが。
俺が観たいものを決めると15禁映画ばかりになってしまうので桜子に選んでもらった。予想通りにラブストーリーになったが、自分が映画の途中で眠ってしまわないかどうか心配になった。
そして映画が始まったが、いつも誰かが死ぬようなものばかり見てる俺からしたら退屈で仕方なかった。正直、早く終わらないかと思っていたが、桜子にとってはいい話だったようですすり泣く声が聞こえた。
「そんなにいい話だったか?」
「いい話すぎます〜。」
終わってからもまだ泣いていた。感情の乏しいやつよりはいいが、これはこれで世話が大変だなと思った。
映画のあとはちょうど昼ご飯のタイミングだったのでフードコートへ行くことにした。社会人の男となるともっといいところへ連れて行った方がいいのかと思ったが、たいした収入なんかない俺からしたらあまり高いレストランへは連れて行ってやれなかった。そもそも桜子だって俺に金の期待なんかしてないはずだし、これで俺のことが嫌になるならそれでいいと思ったのだ。
「私、ここのフードコートすごい好きなんです。修太さんと来れるなんて嬉しい!」
「そ、そうか?奢ってやるから好きなもん食えよ。」
「えー?いいんですか!ありがとうございます!」
桜子は目をキラキラさせていた。なんか調子狂うな…。こんなことで喜ばれるとは思わなかった。
「桜子さぁ…俺なんか追いかけて大丈夫なのか?」
桜子はハンバーガー、俺はお好み焼きを注文した。料理が出来るまでの時間に話した。桜子の頭には?が浮かんでいるようだ。
「なんで追いかけたら駄目なんですか?」
「いや、同じ高校に半分くらい男いるだろ?もっとキラキラしたやつなんかたくさんいるはずじゃん。俺なんか夢もないし、バイトの後はダラけてるだけだぞ。」
「修太さん、あの時助けてくれたじゃないですか。他に通行人なんかたくさんいたのに、あの時来たのは修太さんだけですよ。私からしたらキラキラしてますよ。」
あの時は、この清楚な女がチンピラに連れ去られたらどうしようかと何故か心配になったのだ。本当にただそれだけなんだ。蓋を開けて見れば変な女だったが…。
「それに私、同じ学校のキラキラしてる男の子、ちょっと苦手なんですよね。モテるのはいいけど、それでいい気になって大きい態度を取ったりするし、あまりいいイメージないですよ。修太さんはなかなか手に入らないけど、だからこそ素敵に見えるんです。」
その時、俺のアラームが鳴ったので空かさず席を立った。
ちょっと今のは危なかった…。俺は一体どうしたんだ。まさかこんな振り回される側になるとは思ってもみなかった。今日デートしたらどうせ嫌になるだろうと思っていたのに。
ご飯の後にどうしても煙草が吸いたくなった。というよりも悩む時間が欲しかった。桜子はたいして嫌な顔もせずに、どうぞーといつもの調子だった。
高校生と社会人だからダメとは思っていたが、逆に言えば理由はそれだけなのだ。桜子は高校2年生だ。たったの4歳差なんて社会に出てしまえばなんてことない。それに、俺が肝心なところで歯止めをかければ何も問題はないはずだ。
煙草を吸い終わり、桜子のいるテーブルへ戻ろうとすると男2人に話しかけられていた。はぁ…本当に隙のある奴だ…。
「修太さん。」
俺が来て安心したのか笑顔になった。だが、男2人が腹立たしくなり、桜子の手を掴んで何も言わずにさっさと退散した。
「ちょっと、修太さん!」
「全く、なんでいつも1人になると男に絡まれるんだよ!」
「修太さん、あの2人は学校の友達ですよ。」
「……。」
早とちりだったか。
「2人に修太さんのこと紹介したかったのに。」
「俺なんか紹介しても引くだけだよ。」
「引かないですよ。私のこと助けてくれた人って話したらかっこいい男だねって言ってたのに。」
建前の話だろ。
「修太さん、手繋いでくれてるの嬉しいです。」
あ…。気付いたら手を掴んだままだった。
「もう少しこのままでもいいですか?」
「うん…まあ。デートだしな。」
手首をつかんでいただけだったが、きちんと繋ぎ直した。そのまま暫く歩いていると、CDショップの前にたどりついた。小さい液晶テレビが置いてあったが見覚えのある男が映っていた。
「あ!アイツじゃん!中林ケイタ!」
傑から聞いた、俺に似てるミュージシャンだ。
「桜子、この男と俺、似てない?」
一瞬、桜子の手が震えた気がした。
「似てますね。」
「傑に、俺も楽器弾いて歌えばモテるんじゃないかって言われたんだよ。俺、才能ないから無理だけど。」
桜子なら笑ってくれそうな気がしたが、中林ケイタの映像を見てちょっと悲しそうな顔になっていた。
「桜子、こいつのファンか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。いい歌だなあと思って。」
そういえば顔が似てるってだけで曲は全然知らなかった。アコースティックギターを弾きながらバラードを歌っていた。傑から聞いたときには、ロック歌手と勝手に思っていた。
「本人が俺の顔見たら驚くだろうなあ。」
自分に似た芸能人なんてなかなかいないのでしばらく見入ってしまった。テレビ画面の隣には店員の手書きの宣伝と祭のチラシが貼ってあることに気付いた。毎年開催の地元の祭りに中林ケイタが来るらしい。しかも出身がこの辺りだそうだ。
「この祭、もう何年も行ってないんだよなあ。」
「修太さん、それなら一緒に行きませんか?」
「そうだな…暇だから行こっかなー。」
曖昧に言いつつも、内心では桜子と行こうと決めていた。
その日のデートは諦めさせるためのデートにしようと思っていたのに、結局俺が桜子から離れがたくなってしまった。桜子も俺に対しての期待は下がっていないようだ。そもそも、いかにも遊んでそうな男にこれ以上何も期待はしないだろうけど。
祭の当日、待ち合わせ場所に行ったが桜子をすぐに見つけられなかった。いつものようにロリータ服で来ると思ったのに、その日は何故かロリータじゃなかった。
「せっかくの祭りなのになんで普通の服なんだよ?」
「普通の服がいいときもあるんですよ。」
こういうときこそ着るもんじゃないのかと思ったが、女のファッション感覚はよく分からないのでそれ以上言わないことにした。そして、最初に会った日の桜子を思い出した。俺はこっちの桜子の方が好みだと気付いた。それもあって、あの日思わず助けたのかもしれない。
ケイタの演奏は14時からだったため、それまでに出店のご飯や雑貨を見て回った。俺は食べ物にしか気が行かなかったが、桜子はアクセサリーの売店を見たがった。
「修太さん、お揃いで買いましょうよ!」
「いやー、俺の歳でお揃いって…。」
そもそもピアスもネックレスも俺はつけないため、何をお揃いで買えばいいのかわからなかった。
「キーホルダーならつけますよね?ね?」
結局押されて買うことになった。女らしいデザインではなかったので俺が持っていても不自然さは無かった。
「あの…。」
店員の女が俺たちを見て驚いていた。
「もしかして中林ケイタさんですか?あのミュージシャンの…。」
「いやいや違います!似てるだけです!」
「そうなんですか…。私、あの人のファンだから嬉しくて。」
たしかに今日は本人が買い物をしていてもおかしくは無い。嬉しそうにしている店員を見て桜子がヤキモチを妬いた。
「この人は私の彼氏なんで駄目ですよ!修太さん、行きましょう!」
桜子はこれ見よがしに俺の手を握って歩き始めた。
「そんな怒らなくてもいいだろ。」
「だって修太さん、ちょっと嬉しそうにしてたから…。」
「仕方ないだろ、俺は日頃モテないんだよ。」
「私がいるんだからいいじゃないですか!」
俺達は付き合っていないのに、桜子はとっくに付き合っているつもりでいるように見える。俺も桜子に気持ちが傾きつつあるが、なかなか付き合う決心がつかない。
そろそろ14時が近づいてきた。中林ケイタの演奏の時間だ。
「お次は期待のミュージシャンです!中林ケイタさん、お願いします!」
司会者のアナウンスが聞こえた。中林ケイタは派手な衣装とアコースティックギターを持って出てきた。既に名前は知れ渡っているのか、観客はかなりの歓声だった。
中林ケイタは、派手な見た目とは裏腹に切ないバラードを歌っていた。俺と顔が似ているとは言っても、生き方は真逆だ。きっと純粋に夢を追いかけて今に至るのだろう。応援する気でいたが、フラフラと遊んでいる自分と比べて嫉妬してしまう。
ケイタのステージが終わると、感動で泣く奴、応援の言葉を叫ぶ奴、歓声を上げる奴で大盛況だった。俺は拍手しかしなかったが。
演奏が終わったあとも出店を周っていた。だが、その中で俺はもう言わないといけないと決心した。
「桜子。」
「なんですか?」
「俺みたいな男で本当にいいのか?」
「え?どうしたんですか突然…。」
「俺、もっとちゃんとしないといけないと思って…。」
せめて恋愛だけでもきっちりしないと駄目だと思った。
「俺、桜子のこと…。」
「桜子ちゃん?」
すると、俺の背後で桜子を呼ぶ女の声が聞こえた。タイミングが悪かった…。声の主の方を見ると、ロリータ服を着ていた。桜子の他にもこのファッションを好む女がいたのか。
「美和子さん…。」
久々に友達に会ったはずなのに、桜子は何故か気まずそうになった。
「久しぶりだね。会えて嬉しい!この人は?彼氏さん?」
「はい、そうなんです。」
「ケイタ君そっくり!」
ケイタ君?この女も中林ケイタのファンか?
「あの、美和子さん、私たち急いでて…。」
「あれ?桜子?」
ちょっと遅れてから男が桜子を呼んだ。
え…?コイツは…。
「ケイちゃん…。」
……中林ケイタだった。さすがにさっきの衣装からは着替えていて地味な私服に野球帽、そして黒縁メガネをかけていた。だが近くで見ると誰なのかはすぐにわかった。この状況は一体どういうことだ??
「桜子…?知り合いなのか?」
「はい、ケイちゃんは幼馴染で、美和子さんはケイちゃんの彼女なんです。」
「はじめまして。まさか桜子に彼氏がいたとは!」
中林ケイタは有名人のわりに偉そうにするわけでもなく、低姿勢だった。
「ごめん、私たち急いでるから行くね。」
「あ、そうだよね。ごめん。俺、しばらく実家にいるからまたねー。」
ケイタと美和子さんは桜子がデートの邪魔をされたくないと思ったのか、あっさりと見送ってくれた。なんだか色々と急すぎて頭が追いつかない。
しばらく無言で歩いていたが、桜子が口を開いた。
「修太さん…さっきは何を言おうとしたんですか?」
桜子はいつもの調子が抜けて口調が弱くなっている。きっと後ろめたいのだ。ケイタと知り合いなのを隠していたのだから、わかっててやってるんだ。
「桜子、中林ケイタは本当にただの幼馴染なのか?」
「そうですけど…。」
「ならなんで言わなかったんだよ?あいつと何かあったから言えなかったんだろ?」
桜子は口籠ったが、白状した。
「片思いしてたんです。私がケイちゃんに。でもケイちゃんには美和子さんがいたから…。」
「へえ、だから同じ服で振り向かせようとしたのか。」
今日ロリータ服を着なかったのは、ケイタに気づかれたくなかったからだろう。
「修太さん、私本当に、本当に修太さんに惚れてるんです!ケイちゃんに似てるとか関係ないです!服だって、単に可愛いと思ったから真似しただけです!」
必死に訴える桜子を見ても心が動かなかった。あんな大物と自分を比べて自信を無くしていたところに、桜子はそいつが好きだった、なんて聞かされたら嫉妬どころでは済まない。
「ごめん…今は一緒にいられない。」
「え?修太さん…。」
すっかり自信を無くした俺は、桜子を置いて帰ってしまった。
家に着いたが、鍵を開けるときに今日買ったキーホルダーに気付いた。何がお揃いだよ。高校生の女と同じやつなんかつけれるかよ。
桜子は俺が好きなんじゃなくて「ケイタに似てる俺」が好きなんだろうな…。俺、桜子のこと好きになってたんだけどなぁ。初めて会ったときにLINEを聞かれたのも、しつこく付きまとわれたのも、全部全部ケイタに似てるからだ。
今日の出店の店員だってケイタに似てるから俺を気に入っただけで、それがなきゃ覚えてもないだろう。
「で?それでもう終わったってわけ?」
数日後に傑に話を聞いてもらっていた。場所はあのファミレスだ。
「当たり前だよ。相手はミュージシャンだぞ。あいつと俺を比べたら自信なくなるだろ。中身は全然違うってのに。」
「そんな大物と比べたら駄目だよ。」
顔さえ似てなければこんな嫉妬することなかったのになぁ…。
「でもさ、あの時桜子ちゃんを助けたのは修太だよ?ケイタに似てる修太じゃなくて、自分を助けた修太が好きなんじゃない?」
「だからそれもケイタに似てる俺が助けたから気に入られたんだよ!」
イライラしてるからか煙草の量が増える。
「そうやって嫉妬してるってことは桜子ちゃんのことが相当好きなんだね。好きなら突き進めばいいのに、修太もこういう時はナヨナヨしてるね。」
「なんだよ!傑だって今まさにナヨナヨしてるだろ!一回もデートしてないのに偉そうにするな!」
揉めていると店員が走ってきた。傑の好きな女だった。
「どうしましたか?」
揉めている男2人の席に来れるなんて肝の座った女だ。なんだか自分たちが余計に情けなくなった。
「いや、ちょっと口喧嘩してただけで…。あ、そうだ店員さん、コイツが貴方に話があるそうですよ。」
「え?修太…。」
俺は自分のお金だけ置いてファミレスを出た。こうでもしないとファミレスの店員ならいつか辞めてしまう可能性もある。駄目でもいいから前に進まないといけない。
あれから、桜子からはLINEが何通も届いていた。だが、何も返信する気になれなかった。さすがに前みたいにバイト先に押しかける勇気は無かったのか、仕事中に店にまでは来なかった。
「ねえ、今暇??」
ある日、桜子と出会う前みたいにまたナンパして遊んで回っていた。
「暇じゃないし!」
これで今日で3回目だ。なかなか調子が乗らない。あーあ、暇そうな女いないかなー。探していると、誰かと待ち合わせしているであろう女がいた。ちょっと桜子と雰囲気が似ていた。
「お姉さん、今何してるのー?」
すると、俺の顔を見て驚いていた。
「あ!あなた…。」
「もしかして中林ケイタに似てると思いました?別人ですよ。」
「いや、違うんです。私は…。」
「ちょっとー、俺の彼女をナンパしないで…って修太!?」
その女の彼氏が来た。…傑じゃん。
しかもよく見たら、彼女はあの傑の好きな女店員だった。いつものファミレスの制服にまとめ髪とはちょっと違うから気付けなかった。
「あの後、付き合えることになったんだよ。これは修太のおかげだなー。」
「傑君、度々来るのにいつもお礼を言ってくれるのが嬉しくて。告白された時は本当に驚いた。」
へへへーといつもの調子で傑が笑った。はあ、前に進めてないのは俺の方か。
「修太、お礼にいいこと教えてやるよ。」
「なんだよ?」
「実は俺の彼女は桜子ちゃんの姉です!名前は百合子ちゃんでーす。」
え!?なんだ、桜子と雰囲気が似てると思えばそういことか…。結局桜子から離れられないんだな俺は。
「修太さん、桜子にまた会ってもらえませんか?桜子、最近元気なくて…。」
「元気ないとか言われてもねぇ。俺だって元気ないのに。」
「ていうか修太はそもそも桜子ちゃんが好きなの?」
「え?なんだよ今さら…。」
「桜子ちゃんの気持ちばかり気にしてるけど、結局好きなのは修太の方じゃん。もう素直になったら?桜子ちゃんは散々修太に気持ちを伝えてるのに。」
そういえば、まだちゃんと好きだと伝えていなかった…。伝えようとしたらケイタと美和子さんが現れたから…。
「中途半端にしてたらそれこそケイタに叶わないよ。ミュージシャンとか言う前に人間として勝負すればいいだろ。」
俺はケイタの歌を聴いた後に、恋愛だけはきちんとしようと思ったんだ。職業じゃなくて、気持ちで負けてたってことだな…。
「俺…桜子に会ってくるよ。」
そう決めたあと、自然と足が動き出した。
「修太さん!」
久々に会った桜子は俺に向かって走ってきた。
「修太さん、会いたかったです。」
桜子はこんなに素直に気持ちを伝えてくれるのに、俺は何をしていたのか…。
「桜子…俺も桜子のこと好きなんだよ。」
「…嬉しいです。」
「だから付き合ってほしい。ケイタに負けないくらいにいい男になってやるから。」
「もう充分、修太さんはいい男です。私が変な人に掴まったら、助けてくれるのは修太さんだけです。」
こんな簡単なことだったんだな…。本当の気持ちを伝えられて良かった。
「えー、僕のために今日はみなさんありがとうございます。」
ある日俺は、あの中林ケイタの家に呼ばれていた。ケイタのデビュー祝いで、家でパーティーをするからと中林家の親戚一同と桜子の家族で祝うことになったのだ。というか、なんで俺も呼ばれてるんだ?ちなみに傑も一緒にいた。あとはケイタの彼女の美和子さんも。
「ケイちゃんがまた会いたいって言ってたから。それに、みんなに修太のこと紹介したかったからね。」
「私も、傑君のこと紹介したかったの。」
それはいいんだけどさ…。まさかここで両親に会うとは。黒髪にしてくればよかった。お父さんの目が怖い…。
「かんぱーい!!」
しばらくそれぞれに喋っていたが、ケイタが俺の横に来た。
「見てみて、顔似てるっしょー!」
それを見てみんなが写真を撮り始めた。というか有名人なのにこんな簡単に写真を撮らせていいのか??それに、第一印象のときと変わらず偉そうにはしていなかった。
「修太さんってオシャレですね。今度服選び手伝ってくださいよー!」
ケイタは中年のオヤジみたいな服を着ている。祭りの日に会った時もこんな感じだったが、その時は単に変装しているだけと思っていた。
「ていうか肌もキレイじゃないですか!どうやって手入れしてるんですか?」
「肌は何もしてねえよ!そういうのは彼女に聞け!」
「同じ顔なんだから協力してくださいよ〜。」
「いやいや同じ顔って!」
俺たちが話しているのを見てみんなが笑っていた。
「2人とも兄弟みたいだね。楽しそう。」
俺には兄弟はいないが、もしいたらこんな感じになるのかもな。
パーティーなので軽く騒いでしまったが、ケイタが最後にみんなの前で歌を披露してくれることになった。さっきまでの雰囲気から一転して、別人のようになっていた。目の前で聴いていると男の俺でも惚れてしまいそうだった。
「皆さん、これからも応援よろしくお願いします。もし売れたら…美和子と結婚します!」
その宣言にみんな思わず歓声をあげて拍手をした。
「ケイタ君…お願いします。」
売れなくたってケイタと美和子さんはきっと結婚するだろう。
パーティーが終わって、玄関の外で桜子と話していた。
「今日は来れて良かったね。ケイちゃんと修太も仲良くなれて良かった。」
ケイタの性格のおかげだな。
「ねえ、桜子。」
「なに?」
「俺たちも将来結婚しような!」
「しゅ、修太…。」
桜子は俺の背後を指差している。振り返ると桜子のお父さんがいた…。
「お、お父さん、僕はそれくらい本気で…。」
「修太君、そういうのは桜子が社会人になってから言いなさい。」
お父さんはそれだけ言って家に帰っていった。
「修太、大丈夫だよ。お父さんは修太のこと気に入ってるから。」
「そうなのか?」
「うん。だって修太は私を助けた人だもん。絶対放すなって言われたの。だから大丈夫だよ。」
俺だって絶対放さない。俺は桜子のためにいい男になってやるから。
だから桜子、幸せになろうな。
終




