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白栖が医務室に入ってきた。

先生は襟すら乱れていなかった。

彼はいつも通り優しい笑みを結真たちに向けた。

まるで何事もなかったかのようだった。

「目を覚めましたね。よかったです」

「先生……」

白栖はベッドのそばの椅子に腰を掛けた。

「図書館の中はもう落ち着いた。結真たちの名前は記録に残っていないから、安心していいですよ」

他のことは学校側に任されていると、白栖は言った。

「……」

「聞きたいことがあれば、どうぞ」

結真は言葉に詰まった。

どこから聞けばいいのかすらわからなかった。

「『あれ』はなんなのか、知りたいですか?」

白栖は結真が迷っているのを見て取ったのか、自分から切り出した。

「……はい、知りたいです」

「……お恥ずかしい話ですが、『あれ』はずいぶん前になくした、私の落とし物です」

「落とし物……ですか?」

「そうです。もう見つからないと思っていました」

「……え?え?信じられません!どうやって、心臓なんて落とすんですか?!」

白栖は苦笑いをした。

「さあ……どう落としたかと聞かれても……人間だって、よく心をなくすじゃないか?」

「それはただの例え話です!」

「そういうものですか?」

「そうですよ!」

結真は白栖の話を聞いて、なぜかほっとした。もともと詮索しないと決めていたが、やはり知りたいことがあった。

「先生、あの……その『心臓』は、本当に先生のですか?」

白栖の口調は軽く、まるで『いい天気ですね』と言っているようだった。

「そうですよ。前はうるさかったからね……落ち着かせた」

「なんで……ですか?」

「結界の邪魔をしてたからですよ」

「……信じて、いいですか?」

「もちろん。先生は嘘をつけません」

結真は思い出した。

――燃える街。翼を持つ龍が空を飛び、雷を呼んでいた。

その叫び声は、空を裂くほど大きかった。

そして心臓は一度脈打っただけで、すべてが静まった。

自分が見たのは心臓だけではなく、彼の遠い記憶だった。

「……それは、『傲天』?」

「『傲天』なんて、ただ人類がつけた序列にすぎません」

「先生は自分で序列から外れたんですか?」

「心臓がうるさかったから、止めただけかもしれませんよ?

序列は、人類が力の限界を知るためにあるものだったと思います」

「やっぱり、人類じゃないんですね」

「私は今先生です」

「先生って、人じゃなくてもなれるんですか?」

「授業できるなら誰でも気にしないですよ」

「規定はゆるすぎませんか?」

「そうですか?」

「……せめて心臓をなくすのはなしです」

「……次は気をつけます」

そんなツッコミも受け流す白栖に、結真は顔を手で覆った。

「もしかして、まだ何かありますか?」

「さあ……」

「先生は龍ですよね?」

「想像にお任せします」

その次の日に、お知らせがありました。

――【白栖先生の授業はこれまで通り行われます。】


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