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その日の結真の日記は、空白だった。

「先生は序列がないわけではない。序列を超えるものだった」

結真はそう書きたかったが、書き出すことすら怖かった。

水曜日、白栖先生の授業のタイトルは――「核の変異と魔力の不対等」

内容は、「人類以外の魔力」、「他種族の魔力回路の解析」、「魔法の発動条件」など、多岐にわたる。

上級生しか履修できない授業だったが――この授業はまるで都市伝説研究会の集まりだった。

「今日のテーマは、『本体が魔力核を失った後、代替は存在しうるのか』です」

白栖はいつものように黒板の前に立ち、書き出す文字は書道のように整っていた。

「例えば古い文献には、『一つの魂は複数の核とリンクできる』という記述がある。

逆に、『一つの心臓が複数の核を連結する』事例も報告されている……その中でも、最も適した“材料”とされるのが――『龍の心』らしい」

『龍の心』という言葉が出た瞬間、教室は静まり返った。

黒木がパラパラと教科書をめくっていた。

結真は思わず、この言葉をノートに書き留めた。

「通常、『龍の心』は龍の器官の一部を指すとされる。

それは人の『魔核』に相当すると、多くの学者が指摘している……

ですが、神話の中にはもっと面白い言い方がある――

『龍の心が不滅であれば、龍は不滅である』

……さて、皆さんはどう思いますか?」

先生が字を書いている間、結真は緊張と興奮で、自分の鼓動が耳に響いているのを感じていた。

「た、確か……『心があれば、体はまた作れる』って、とある傲天序列の白龍の言葉……ですよね」

先生の言葉はあいかわらず優しい。

「傲天は確かに古い文献には記載されていますが、それほど多くはありません」

「なら、龍は心がなくても生きられる、ということですか?」

「そういう可能性もあるらしいですが、証明はできません。なぜなら……心が残っている例はないからです」

「もし龍が心なしでも生きられるなら……その心は、まだどこかに存在している、ということですよね?」

「龍が、心臓を忘れただけ、とか?」

「それって、先生のこと……?」

一人の学生が小声でつぶやいた。

教室にざわめきが走った。

他の学生は一つの仮説として聞いていた。だが、結真は違う。その場で見たからだ。

背筋がぞっとした。

先生の言葉は続いた。

「でも、もしその心がまだ存在しているなら――傲天かもしれないね」

この一言で、ざわついていた学生たちは一瞬で静まり返った。

「……先生……私たち、冗談で言ってるんですよ……」

白栖は少し首を傾げた。

「あなたたち、真実を知りたいでしょう?」

「つまり、古い文献は正しいってこと?」

「そうですね」

「……その心臓は、今も存在しているんですか?」

「どうでしょうね……」

誰にも言葉が出ない。

「あなたたちのすぐそばにある……かもしれませんよ」

結真の方へちらりと視線を向けた。

結真は驚いて、思わず席から立ち上がった。

「僕、何も持ってない!」

「……まだ、何も言ってませんよ」

この授業のあと、ブログでは『白栖先生の序列の秘密』が再びざわついていた。

「龍の心は器官ではない!龍の全ての秘密がそこにある!」

「白栖先生って心臓ないの!?」

「白栖先生は龍です!先生最高!」

その夜、黒木が結真に聞いた。

「先生って、心あると思う?」

「あるかないか。先生しか知らない……」

しばらくの沈黙のあと、結真は続けた。

「けど……先生の心臓を見たいな……!」

「早く医者に行ったらどう?」

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