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デス・フードファイト

作者: 緑野タニシ

 思えば、わんこそばのためだけに盛岡に来たようなもんだ。

 昨夜は味噌汁一杯、今朝からは断食。わんこそばにすべてを賭けて、コンディションは完璧に整えた。


 なのに、今はすべてが恨めしい。

 七十杯目あたりから、蕎麦の味がまるでしない。飲み込みたいのに、噛み終わらない。そのもどかしさの先にあるのは、ただのぬるい塊を延々と胃に流し込むような感覚だった。

 無表情でそばを盛り続ける給仕、美味そうに食い続ける隣の親友。どいつもこいつも、憎らしい。


 早く終わってくれ、誰でもいい、俺以外が先に脱落してくれ、せめて次の蕎麦は小盛であってくれ。


 神に祈るような気持ちで椀を構える。

 だが、その神が主催する祭りがこれなのだから、心底堪ったもんじゃない。


 「はいじゃんじゃん!」

 「どんどんっ!」


 給仕の掛け声だけはやたら明るく、顔は眉一つ動かさないまま次の蕎麦を盛る。

 キッと給仕を睨みつけてやりながら蕎麦をかき込むと、本殿の奥から耳をつんざくような声が響いた。


 「いやああああやめて!!助けてええ!!」


 さっき給仕に連れて行かれた――もう何人目かもわからない脱落者の悲鳴は、俺に吐き気と、絶対に生き残るという強い決意を固めた。



 *** 



 始まりはただ、人生死ぬまでに一度わんこそばとやらに挑戦してみたかっただけだ。

 幕下止まりだったが元力士である友人の岡崎と共に、有給を継ぎ接ぎして盛岡へやって来るまでは良かったが――


 「ここもダメだぜ、高森よう」

 「ちくしょう、盛岡市民には腹ペコしかいねえのか」

 「なあ、何で予約してねえんだよ……」


 平日の昼間だというのに、どのわんこそばの店も長蛇の列を成していた。渋々並んだ末に、材料切れのために目の前の客で列を切られ、そろそろ太陽も傾きつつあった。

 途方に暮れた俺たちは昼メシを諦め、晩メシのわんこそばに賭けるために断食チャレンジ延長の覚悟を決めたところで、それは示し合わせたかのように現れた。


 「何だこの貼り紙?……おい岡崎、ひょっとしてこれ無料(タダ)か?」


 聞いたことない名前の神社で今晩開催予定のわんこそば祭り。“参加費無料”と、間違いなくそう書いてあることを俺たちは何度も確認した。

 そうして俺たちは何の迷いもなく会場へと走り出し、受付を済ませてからはあまりの空腹に倒れないよう、じっと境内で開始の合図を待ち続けた。


 「そういや、これって勝ったら何貰えんだ?」

 「わかんねえ、俺は蕎麦が食えりゃなんでもいい」


 岡崎は俺の質問に興味を示さず、次々に並べられる机と寸胴鍋を眺めて笑顔を浮かべていた。かく言う俺自身、今は蕎麦以外何もかもどうでもいい腹模様だったから、同じ気持ちではあった。


 「それではお集まりの皆様、ご唱和ください。食神様に感謝を込めて、いただきます!」


 そして陽が落ちると、遂に開始の合図が境内にこだました。

 長机にニ十人弱の参加者がずらっと並んで座っており、付け合わせの刺身から食べ始める奴もいれば、俺や岡崎のように一目散に蕎麦に齧り付く奴もいた。

 給仕の女たちが訓練された兵隊のように一糸乱れぬ連携で次々に蕎麦を盛ってくる。


 「はいどんどん!」

 「じゃんじゃん!」


 小気味いいリズムで陽気な掛け声が響き続ける。周りには岡崎よりデカイ奴はいないが、どいつもこいつも悪くない食べっぷりだ、負けてはいられない。


 「てか、うんま何だコレ!!」


 そもそもの話、蕎麦が美味すぎる。わんこそばとして早食いするにはあまりにも勿体無い。一口を百回噛んで飲み込みたくなる、そんな絶品だ。


 「ずぞぞぞぞ!!高森ィ!こりゃ今まで食った蕎麦がゴムみてえだぜ!」


 誇張抜きに、俺もマジでそう思った。

 俺は付け合わせの刺身も頬張りながら、涙が溢れそうな気持ちで祭りを堪能した。盛岡最高、よく知らないけど食神様ありがとう。


 「はいどんどん!」


 おまけに俺に蕎麦を盛ってくれる給仕の姉ちゃんは紛うことなき秋田小町。いや、それは隣か。とにかく切れ長の糸目が特徴的で、すらっとした長身がまるで女優のようだ。


 「うんめえぇ……姉ちゃん、どんどん盛ってくれよ!」


 幸せの絶頂の中、三つ隣に座っていた若い女が器に蓋をした。


 「すいません、私ギブ。これ以上は太るわ」


 まだ十五杯前後だろうに、もう終わりか、勿体ねえと思ったが、あの細い腰つきじゃ納得もできた。女は“ごちそうさま”と手を合わせると、給仕に言われるがままに席を立ち、俺たちの背後にそびえる本殿の方へ案内された。

 参加賞でも貰えるのかと思いながら気にせず蕎麦を啜っていると、それは突然俺たちの耳を突き刺した。


 「きゃああああああ!!」


 さっきの若い女の声に違いない。本殿から迫真の悲鳴が飛んできた。

 俺を含め、何だ何だとざわめく参加者たちだったが、本殿から戻ってきた給仕が何食わぬ顔で「さ、祭りを続けましょう」と抜かしやがった。


 「はいじゃんじゃん!」


 隣を見ると、岡崎は周りを一切気にせず蕎麦に夢中だった。


 「おい、何かやばくねえか?」

 「何だよう、別にどうってことねえよ」


 この時、俺たちは全員一斉に逃げ出すべきだったのかもしれない。岡崎以外の全員が一度は顔を見合わせ、不穏さを感じていながらも、雰囲気に流されて再び箸を取ってしまった。

 


 *** 



 そして、七十五杯目。残ってる参加者は俺を含めて丁度十人か。食えなくなった奴から本殿へ連れて行かれて、何かをされているのは間違いない……現に誰一人として戻って来ない。どうにかして勝ち残ることができれば無事に帰れるはずだ。

 ふと隣の親友、岡崎を見遣ると、既に百杯は超えているようだが、殴りたくなるほどに幸せな顔をしながら蕎麦を掻き込んでいた。


 俺は脇の下に汗が滲むのを感じた。岡崎より蕎麦を食えるわけがない。万が一、億が一に俺が勝ったとしても、岡崎が助からねえ。


 どうすりゃいい。


 どうすりゃいいのか考えながら、俺は糸目の給仕が何食わぬ顔で盛り続ける蕎麦を啜った。今はこの蕎麦がゴムのようだ。


 この女も一発殴りたい。


 逸る気持ちを抑えながら蕎麦を啜っていると、俺よりずっと小柄で、ガリガリの男が無表情で咀嚼しているのが見えた。

 積まれている器もたったの三十杯前後、俺の半分以下だ。あいつの手は完全に止まって、口だけが動いていた。


 「そうか!あの野郎セコイ真似しやがって……その手があったか」


 そうだ、誰よりも食う必要はない。残した奴から消されるのなら、最後に生き残ってさえいればいい。

 俺はペースを落とし、今までの二倍、いや三倍の時間をかけて一口をたっぷり咀嚼した。美味くはない、噛み終わったガムの方が腹に溜まらないだけまだマシだが、背に腹はかえられない。


 「冒涜ですね」


 糸目の給仕がボソリと呟いた。全身の鳥肌が一斉に立ったのを感じたが、視線の先にいたのは俺ではなく、あの咀嚼男だ。


 「うわ!や、やめてください!」


 咀嚼男が連れて行かれ、少し遅れて本殿から悲鳴が轟く。

 糸目の給仕は俺に向き直ると、変わらぬ無表情で見つめてきたが、“早く食え”と言われてる気がしてならなかった。


 「いや……あはは、あんまり美味いもんだから……おかわり」

 「はいどんどん!」


 声色は明るいのに真顔のまま。もう本当に気持ち悪いよコイツら。


 「この祭りはな、次の食神様を決める儀式なんじゃ」


 右隣に座っている爺さんが突然、俺に向けて訳のわからないことを抜かし始めた。


 「この地で代々行われていることじゃよ。最後までわんこそばを食べ続けた者だけが、次の食神様としてこの神社に祀られる……」


 爺さんはゆっくりと蕎麦を啜りながら続けた。


 「はあ……?それって、神主みてえなもん?給料いくら?」


 満たされてきた腹に危機感を覚えている俺の適当な質問に対し、爺さんの隣に座る婆さんが答えた。

 

 「ただずっと……永遠にわんこそばを啜り続けるのじゃ」


 言い終わると同時に、老夫婦と思しき二人は器の蓋を閉めた。そんな彼らの腕にはお揃いの数珠が巻かれていた。


 「後は……若い者の時代じゃ」

 

 よく見たらもう一方の腕にも数珠がある。一つや二つじゃない、何だこいつら、普通足首にも数珠巻くか?


 「それでは、こちらへ」


 二人を担当していた給仕がそれぞれの手を取り、本殿へと歩き出したその瞬間、妙にカッコイイことを言い残したはずの爺さんが子供のように喚き始めた。


 「ぎゃああああ嫌じゃ!ワシに触るなああ!」

 「ワシも嫌じゃあああ!離せえええ!」


 死ぬのが怖くなったのか何だか知らないが、そこには癇癪を起こした見苦しい老人の姿があった。優しく手を引いていた給仕は一変して二人を引きずって本殿へと進んでいった。二人の捲れた服の内側には、安っぽいガラス玉のような宝石や、インチキじみたオカルトグッズだか何だかよくわからないおもちゃもぶら下げていた。


 「スピ狂いが……おどかしやがって」


 俺は吐き捨てるように、いや吐き捨てたいのは味のしない蕎麦の方だったが、それは目の前にいる糸目の給仕が許してくれそうにない。

 しかし、老いぼれのホラ話を間に受けた訳ではないが、俺は確かに思い違い……いや、勝手に能天気な決めつけをしていたことに気付いた。


 この祭り、勝ち残ることが正解なのか?


 「なあお姉さん、勝ったら何貰えんだ?」

 「はいどんどん!」

 「ずずっ……なあ、聞いてるんだ、教えてくれ」

 「じゃんじゃん!」

 「このアマ!下手に出てりゃいい気に――」

 「クソ女ども!!こんな狂った祭りに付き合ってられるか!!いい加減にしやがれ!!」


 突如端の席から、食器が割れる音と共に、俺の怒りを通り越した更なる怒号が響いた。

 ガタイの良い男が机の上をブチ撒けながら大暴れだ、こりゃあいい。


 「そうだそうだ!付き合ってられっか!!岡崎ィ!てめ食うのやめろ!!」


 便乗して俺も声を上げたが、岡崎には無視された。

 ガタイの良い男はなんと目の前の給仕に殴りかかり、女の顔面ド真ん中に拳を捻じ込んだ。このままの勢いでトンズラこいてやろうと思ったが、思わず俺は声を失い、振りかぶった拳をゆっくりと下ろしていた。


 男の行動に驚いた訳じゃない、殴られた給仕は眉一つ動かすこともせず、無表情で男を見つめていた。


 「なっ……!?うわ、やめろ!離せ!」


 暴れ出した男はあっという間に組み伏せられ、そのまま本殿へ引きずられていった。

 ふざけるな、コイツら人畜無害そうなナリの癖にちゃんと強えのかよ……。


 呆気に取られている俺を他所に、若い男が飛び上がり、入口の鳥居を目指して走り出した。俺もいつかやろうと思っていた最終手段だったが、給仕は動きづらそうな和装からは信じられない俊足で男をひっ捕え、本殿から二人分の悲鳴が轟くことになった。


 目の前にいる糸目の給仕に視線を戻すと、無表情で俺を見つめていた。睨んでいるのか、本当に何も考えていないのか、不気味な程に何も読み取れない(ツラ)をしている。


 「は、ははは……いや、冗談すよ。茶目っけですよ茶目っけ……あはは……やだなぁもう」


 震える手で箸を取り、俺にとって灰色で糸状の何かと化している蕎麦を飲み込んだ。何かの間違いで俺が勝ったとしても、これを食い続ける一生が待っているかもしれない。そう思うと、嫌な吐き気が増していく。


 今何杯食った?九十杯か。参加者は俺を入れてあと六人。岡崎何でお前はこの期に及んで平然と蕎麦が食えんだ。糸目てめえは加減しろ、何だこれは若干大盛りじゃねえかクソッタレが。


 腹いっぱいなのにイライラが収まらないとは皮肉な状況だ。つい数時間前まで蕎麦が食べたくて食べたくて仕方なかったのに、向こう十年は蕎麦という単語すら聞きたくない。


 「もう嫌よおおお家に帰してよおおお!!」


 左の方からおばちゃんの喚き声が聞こえたが、もはや気にならない。どうする、マジでどうする?がっつく振りして溢すか?いや小細工はダメだ、冒涜だの何だの因縁をつけられる。暴れても逃げてもダメ、最悪勝ってもダメ。ちくしょう本当にどうしてこんなことになった。


 「はいじゃんじゃん!」


 頭の中はとっ散らかっていても、箸は止めない。止めたらやられる、だが正直もう限界だ。根性で百杯は食べた、腹が痛い、胸の辺りが気持ち悪い、間違いなく食った蕎麦は胃じゃなくて食道に蓄積されている。


 最初に調子こいて付け合わせの刺身やとろろに手を出したのも間違いだった、能面女どもが、意地汚え罠張りやがって……。


 「どんどん!」

 「じゃんじゃん!」


 やばい、気持ち悪い。限界を超えに超えている。もう吐く、死ぬ。


 俺は何だか走馬灯が見えた気がした。ズルや誤魔化しを繰り返した人生のツケがこれなのか、受験でカンニングしたり仕事中険しい顔でネットサーフィンしてサボる罰がこれなのか?重すぎるだろ。


 せめてもの救いは美人の前で死ねることか。心底ムカついたが、この糸目の給仕、本当に綺麗な女だ。ぶっちゃけモロ好み……他の給仕たちも漏れなく顔面偏差値が高え。ああ、まあいいか、悪くない幕引きだよな。


 すべてを諦めて美人たちの顔を見渡したその時、落雷のような閃きが脳裏をよぎった。

 

 あと一つだけ、誰もやってないことがある。人間なら誰しも、特に女は平気でいられない、アレがある。


 「岡崎、逃げるぞ!!」


 俺は立ち上がり、糸目の給仕の襟首を掴んだ。慣れた手つきで組み伏せられそうになるが、綺麗な顔が近付くその好機を待っていた。


 「オロロロロロロ!!」


 俺はずっと悩まされてきた吐き気を、解き放った。


 糸目の給仕は何が起きたのか一瞬理解できなかったようで、時が止まったかのように佇んだ。そして――


 「ぎいいいいやあああああああああああ!!!!」


 人を舐め腐っていた糸目を全力でかっ開き、これまで上がったどんな悲鳴よりも大きな悲鳴を轟かせた。


 俺はのたうち回る彼女を背に岡崎の蕎麦を叩き落とし、そのまま髪の毛を掴んで鳥居へ走り出した。


 「まだ食ってんだろうが!てかお前くっせえ!」

 「るせえ!黙ってついてこい!」


 他の給仕たちが俺たちを止めようと襲いかかるが、幸いコイツらが用意してくれた蕎麦のおかげで残弾はいくらでもあった。恥などない、トチ狂った食神様とやらが許さなくても、まともな神経の神なら許してくれるはずだ。


 「オロロロロロロ!!」

 「ぎょあああああ!!」

 「うげえええ俺にもかかったぞバカ!」


 俺たちは止まらなかった、終いには立ち塞がる給仕に口をかっ開いて威嚇してやるだけで怯えてやがった、ざまあないぜ。


 それでも近付く奴らの顔面めがけて片っ端からかましてやった。吐けば吐くほど身軽になる俺は、一目散に鳥居を抜けた。それから数百メートル先まで、振り返ってももう誰もいないのにずっとマラソンを続けた。


 「ぜえ……はあ……うぷ、まだ出……オロロ」

 「このゲロ野郎……まだ食えたのによう」


 あのまま続けていたら、俺は確実に本殿に連れて行かれていた。こいつは本当に次の食神に祭り上げられていただろうか?食に関する異常な執着心は、確かに向いているだろうが、カルト野郎とつるむのはごめんだ。


 こうして、俺にとって最低最悪の休日となった盛岡旅行は、宿泊予定をキャンセルしてそそくさと新幹線に乗り込んだ。二度と来ねえぞと毒づき、岡崎の小言を聞き流しながら、俺は能面女どもの正体について考えた。


 見た目からは想像できない程に喧嘩慣れしていて、平気で人を犠牲にするサイコな神経。本殿で何が行われていたのか知る由はない、気になるが、またあの神社へ行くのはやばすぎる。


 あれはきっと人間の所業じゃない、だから考えるだけ無駄だ。


 新幹線がトンネルに差し掛かり、スマホの通信速度が極端に遅くなる。俺はトンネルを抜けるのを待たずにスマホをしまい、リクライニングを倒した。

 どんなに検索してもヒットしない祭りのことはもう忘れようと決意し、勝ち誇った気持ちにだけ意識を向け、眠りに落ちた。

  


 *** 



 一週間後、俺はわんこそばの埋め合わせのために岡崎を連れ、某回転寿司チェーンに来ていた。

 口を開けば“俺はまだ食えた”とか“絶対優勝してた”だの抜かし続ける岡崎に痺れを切らし、渋々こいつを満足させるため要求を飲むことにした。


 「うーん、やっぱ日本人なら寿司だよなあ、蕎麦もいいけどやっぱコレよコレ」


 幸せそうにハンバーグ軍艦を頬張る岡崎を横目に、俺はひたすら安い寿司を探していた。タッチパネルのメニュー表を漁っていると、麺類のコーナーに差し掛かり、“かけそば”の文字が見えた途端に吐き気がした。


 次々と皿を重ねる岡崎の鈍さと図太さを羨ましく感じていると、レーンから頼んでいないはずのネギトロ軍艦が流れてきた。


 「お前頼んだか?」

 「いんや、でも食うぜ」


 そしてまた、頼んでもいないカリフォルニアロールがやってくる。いなり、いか、ハマチ、中トロ、その流れは止まることを知らない。


 見かねた俺は店員を呼ぼうと辺りを見渡した瞬間、指先から一気に血の気が引いていくのがわかった。


 「お呼びでしょうか……お客様?」


 そこに現れたのは紛うことなき秋田小町。いや、よく見たら京美人寄りか。とにかく切れ長の糸目が特徴的で、すらっとした長身がまるで女優のような、この世で二度と会いたくない美人だった。


 他の店員たちがぞろぞろとこちらへ寄ってくる。見知った顔の、能面のような無表情を張り付けて。

 レーンには頼んでもいない寿司が濁流のように流れてくる。岡崎は心底幸福に満ちた様子で片っ端から食っていた。


 「次は俺のクソを浴びたいっつうアピールかい?え?」


 糸目の店員は無表情のようで、うっすらと見える瞳には怒りが滲んでいるような気がした。


 「お客様……どんどん……じゃんじゃんとお寿司をお楽しみください」

 「高森ィ!この店サービスいいなあ!」


 二度と俺に会いたくないと、心の底から実感させてやる。


 岡崎は満面の笑みで寿司を頬張り、俺は覚悟を決めて箸を取った。

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