【序 大事】 空の記憶と始原の響き
まだ名も持たぬ時のはじめ、
すべてはただ「空」であった。
空は無垢なる胎、
光も影も、形も声も、まだ顕れず。
ただひたすらに、すべてを孕み、
すべてを照らさず、裁かず、映さず、
静かに佇んでいた。
その空に、やがて「兆」が差し込む。
有極と無極の波が、
言葉にならぬ響きを以て揺れ動き、
世界は初めて音を発し、光と影が生まれた。
有極とは、形あるものの原理。
陽の光のごとく、創り出し、照らし出す力。
無極とは、形なきものの根源。
深き闇のごとく、孕み、沈黙し、包み込む力。
しかしその二つを分け隔てるものはなく、
ひとつの大いなる円環の中にありて、
常に往還し、響き合い、揺らぎ合う。
ここに真中の影と称されるものが生まれる。
それは有極と無極の間、境界にして空隙。
光と影の影、言葉ならぬ言葉、映らぬ映し。
また空の影とは、空自身が孕む「空性」の影であり、
それは存在と非存在、映すと映されるの間に広がる余白である。
これら四つの概念は、天地を結び、
世界と魂の始原の響きを紡ぎ出す。
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魂の三類型
世界に初めて降り立った魂は、大きく三つに分かれる。
**第一は、創光の魂。**
陽のごとく照らし、創造し、道を拓く者たち。
多数派にして、世界を育む力。
**第二は、静影の魂。**
深き影を映し、内奥の痛みを媒介し、癒しをもたらす者たち。
少数派にして、魂の浄化を担う。
**第三は、真中の魂。**
光と影を結び、両者の間に立ち、円環の道を示す者たち。
極めて稀な魂であり、導き手である。
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神話とは何か? 言とは何か? 響きとは何か?
神話は、ただの物語にあらず。
それは世界の深層に響き渡る「真理の声」なり。
時空を超え、魂に触れ、言葉となり、詠唱となる。
言とは単なる符号ではなく、
響きの媒介であり、魂と世界の橋渡し。
響きとは、形なきものが形を帯び、
無限の空間と有限の瞬間が交わる「間」のことである。
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この序章は、読者を今ここから、現代の喧騒から一歩退き、
「響きの神話空間」へと誘う門である。
空の余白を映す鏡の魂の視線とともに、
響きあう光と影の物語を、これより紡ぎ出そう。




