お互いさま?
「――ふぅ、今日も疲れたねー新里」
【そうですね、斎宮さん。ですが、この疲れさえも心地好いと言いますか……】
「うん、分かる! えっと、何て言うのかな……充実した疲れ、みたいな?」
【……はい、僕も分かると思います】
その日の帰り道。
何とも要領を得ない僕の言葉に、満面の笑顔で共感を示してくれる斎宮さん。そして、そんな彼女の言葉に僕も共感を示す。充実した疲れ……うん、確かにその通りだと思う。そして、そんな気持ちをこうして斎宮さんと共有できるのが、凄く嬉――
【……あの、どうかなさいましたか斎宮さん】
そんな感慨を一旦措き、ふとそう尋ねてみる。と言うのも――さっきまで屈託のない笑顔を浮かべてくれていたはずの斎宮さんが、どうしてかジトッとした目で僕を見ているから。……えっと、どうしたのだろ――
「……ほんと、随分とモテるんだね。新里は」
卒然、何とも不服そうな表情でそんなことを仰る斎宮さん。そんな彼女に、僕は困惑しつつ筆を執り――
【……あの、斎宮さん。このようなことを申し上げるのは、僕としても甚だ心が痛むのですが……もし宜しければ、良い眼科を紹介しま――】
「いや結構だよ!! あと、なんか前にもなかったこのパターン!?」
少し躊躇いつつそう伝えるも、いつもながらの切れ味鋭いツッコミをなさる斎宮さん。いやあなんか落ち着くなあ。
……ただ、前もそうだったけど困惑しているのは事実で。地味で陰キャラでコミュ障のこの僕がモテるとは、いったい――
「……まあ、貴方のことだし全然気付いてないんだろうけど――うちのクラスでも人気なんだよ、新里」
「……へっ?」
「ほら、ここ最近は私達が仲良いこと知ってる人も増えてきてるじゃない? それで、私達は付き合ってるのかとか、付き合ってなくてそのつもりもないなら、新里を紹介してほしいなんて言われたことも少なくなくて」
「……そう、なのですか……」
そう、不服をいっそう募らせたような表情で滔々と話す斎宮さん。いや、もちろん斎宮さんを疑うわけじゃない。わけじゃないけど……えっと、ほんとに?
「――と言うか、ほんとに全然気付かなかった? 練習中とか、結構な数の女の子が新里のことチラチラ見てたと思うんだけど。それも、二年生だけじゃなく」
「……えっと」
「……まあ、見た感じ直接アプローチを掛ける子はいなかったみたいだけど。うん、そこに関しては織部さんに感謝かな」
「……?」
すると、何処か真剣な表情でそう話す斎宮さん。それにしても……うん、よく見てるなあ斎宮さん。でも、織部さんに感謝とはいったい……ところで、それはともあれ――
【……ですが、斎宮さん。お言葉を返す、というわけでもないのですが……言わずもがな、斎宮さんも凄くモテますよね? それに……以前、織部さんと僕のことを仰有っていましたが、斎宮さんも日坂くんと大変楽しそうに……あっ、いえすみません!】
自身の言葉を留め、慌てて謝意を告げる。いや、もう手遅れだけども。
でも……なんで、僕はこんなことを……これじゃ、まるで当て付けだ。お二人の仲が良いことは当然ながら良いことだし、そもそも僕自身が望んでいることなのに、どうしてこんな――
「…………ふふっ」
「……へっ?」
そんな自己嫌悪の最中、不意に届いた斎宮さんの笑い声。……えっと、どうしたのだろう。謙遜でも何でもなく、面白いことなんて何一つ言った覚えはなくて。なのに……どうして、そんなにも嬉しそうな表情を――
……うん、まあ良いか。理由はどうあれ、斎宮さんがご機嫌なら何の問題もないわけだし。




