これってデート?
「――ふふっ、楽しみですね朝陽先輩」
「……はい、そうなのですが……」
「ん、如何なさいましたか先輩?」
「……えっと、そうですね……」
それから、数日経た休日のこと。
そう、言葉通り楽しそうな微笑で話すのは長い黒髪を纏う美少女。僕なんかといるのに、そう言ってくれるのは有り難い。……有り難いの、だけど――
【……あの、織部さん。どうして、僕らは此処にいるのでしょう?】
そう、戸惑いつつ尋ねる。と言うのも……今、僕らがいるのは映画館――以前、斎宮さんと一緒に行ったあの映画館で。
「おや、朝陽先輩。それはもう、昨日申し上げたはずですが……よもや、お忘れでしょうか?」
「……いや、まあそうなのですが……」
すると、僕の問いにキョトンと首を傾げ尋ねる織部さん。……いや、まあそうなのですが……そうなのですけども――
『――卒然ですが、朝陽先輩。明日、なにかご予定はありますか?』
『…………へっ?』
昨夜、通話にて掛けられた織部さんからの問い。彼女から僕を通して斎宮さんに渡ったチケット――それと同じものが二枚あるから、もし良ければ一緒にという旨で。
……いや、流石にそれはまずいのでは? ご存知かと思いますが、行けないって言ったんですよ? 僕。なのに……いざ当日になったら、同じ場所にいるっていったいどういう――
だけど……うん、最終的には承諾することに。と言うのも、一度購入したチケットはキャンセル不可――そして、今から他の誰かを誘うわけにもいかず、従って僕が承諾しなければチケットが無駄になってしまうとのことで。それなら、そのチケットを二枚とも僕が買い取るという旨を伝えたものの、そういう問題ではないとのこと。……まあ、そう言われてしまえば返せる言葉もないんだけど。
そういうわけで、織部さんと二人で映画という、何とも思いも寄らない状況にあるわけなのですが――
「……ただ、それにしても……」
「ん、どうかなさいましたか先輩?」
「あっ、いえ何でも……」
「……?」
思わず洩れた呟きに、ちょこんと首を傾げ尋ねる織部さん。さっきとは違い、本当に分からないといった表情で。
……いや、まあちょっとした疑問がありまして。と言うのも、休日はだいたい二人とも――あるいは、少なくともどちらか一人は出勤しているわけで。なので、斎宮さんが勤務できない今日は本来、僕が入っているはずなのだけども……どうしてか、今日は二人ともオフになっていて。一応、こんな僕でも多少なり戦力になっていると思うし、二人ともいなくて大丈夫なのか確認してみたところ――
『――うん、もちろんいてくれた方が助かるのは間違いないよ。言うまでもなく、二人とも大事な戦力だし。でも……まあ、一応ね』
そう、仄かな微笑で答える蒼奈さん。何処か、意味深と思える微笑で。……えっと、結局どういうこと?
「――ところで、朝陽先輩。劇場に入る前に、なにか購入しませんか?」
「へっ? あ、そうですね……」
ふと、そっと袖を掴みそう問い掛ける織部さん。見ると、どこかソワソワ――そして、その瞳はどこかキラキラしている気が。……ひょっとしてだけど、あまり来ないのかな? こういうところ。だとしたら、ちょっと意外……でもないか。まあ、そういうことなら――
【……はい、是非そうしましょう。僕も、なにかほしいなと思ってましたし】
「……はい!」
そう伝えると、弾かれたようにパッと笑顔を見せる織部さん。僕なんかとでも、出来ることなら楽しんでほしいしね。
「……あの、朝陽先輩。その、私はこういうのをよく知らないのですが……これが、スタンダードなのでしょうか?」
受け付けにて手続きを終えた後、目前のラインナップに視線を注ぎつつ困惑した様子の織部さん。僕にとっては少し懐かしの、個性豊かなポップコーンのラインナップに。……ふむ、なんと返答しようか。はてさて、なんと――
【――おや、見てください織部さん。なんと、期間限定でトゥンカロン味が出ているようです! いやー何とも挑戦的な味ですよね】
「本日一番の眩い笑顔!? あと、通常のも十分すぎるほど挑戦的かと思うのですが!!」
すると、大きく目を見開き声を上げる織部さん。あ、これじゃ返事になってないよね。えっと、他はタピオカ味、ナタデココ味、マリトッツォ味――以前にも見た、恐らくは当館における通常のラインナップで。……うーん、スタンダード……とは言いがたいの、かな?
ともあれ、僕はトゥンカロン――そして、織部さんは熟考……本当に熟考の末、まるで苦渋のような表情でマリトッツォ味を選択。まあ、それだけ悩むのも仕方ないよね。どれも、とても魅力的な選択肢だし。
「……ふふっ」
「……どうかしましたか、織部さん?」
すると、劇場へ向かう最中、ふと微かに声を洩らす織部さん。突然、どうしたのだろ――
「いえ、今更ではありますが……これって、紛うことなきデートですよね、先輩?」
「……っ!? ……えっと、それは……」
そんな疑問の最中、何とも愉しそうな笑顔で尋ねる織部さんにたどたどしく呟く僕。……いや、たどたどしいのは今に始まったことじゃない。ないけども……それにしても、あまりに思い掛け――
「――っ!! 織部さん、こちらへ!」
「……へっ?」
卒然、彼女の手を引き身を潜める。それから、そっと顔を覗かせ窺う。今しがた到着したらしい、美男美女のお二人――斎宮さんと日坂くんの姿を。




