チケット
「……あの、どうかしたの新里」
「……へっ? あっ、その……」
それから、数日経た放課後のこと。
空き教室にて、怪訝そうに首を傾げる斎宮さん。理由は明白――僕が、ずっと何かを言いたげに彼女を見ていたから。
……さて、どう切り出そう。……いや、どうも何もないんだけども。言うべきことなんて、おおかた決まってるんだし。……そう、一言……たった一言、言えば良いだけで。なので――
【……その、斎宮さん。その……こちら、なのですが】
「…………へっ?」
僕の言葉に、ポカンと口を開く斎宮さん。いや、正確には僕の手元――僕の差し出した二枚のチケット、に対してかな。ともあれ、改めて彼女の反応を――
「……これ、前から見たかった映画の……新里が、用意してくれたの?」
すると、大きく目を開いたまま尋ねる斎宮さん。だけど、透き通るその瞳には驚き以上に喜びが宿っている気がして。そんな彼女に、僕は震える手でペンを執り――
【……その、僕はその日、用事があって参ることが出来ないので……その、どなたか親しい方と一緒に行って頂けたらと……】
「…………へっ?」
そんな僕の言葉に、呆気に取られた様子で声を洩らす斎宮さん。まあ、それもそうだろう。いきなり差し出しておいて、その当人が行けないと言ってるんだから。
『――それでは、手始めにこちらを』
数日前の放課後。
踊り場にて、そっと手を差し出しそう切り出した織部さん。そんな彼女の手には、二枚のチケット――今しがた僕が斎宮さんに差し出した、二枚の映画チケットが。
これを、僕からのプレゼントとして斎宮さんに――果たして、そんな旨を伝える織部さん。流石に、皆まで聞く必要はない。何かしら理由を付けて、日坂くんと行ってもらうよう誘導するのが僕の役目ということで。
尤も、どうして織部さんが斎宮さんの見たい映画を把握しているのか――そんな疑問は未だにぐるぐる巡っているけど、そこは触れないことに。……まあ、なんか怖いので。
ともあれ……そういうわけで、少し遅くなったもののどうにか決行。尤も、織部さん自身の要望とはいえ、やはり彼女から貰ったチケットを僕のものだと言うのは些か抵抗があったので、そこはふんわり暈し……いや、ほんと何の意味もないんだけども。
「……それで、誰と行けって言いたいの?」
「……えっと、それは……」
すると、睨むような鋭い視線でそう問い掛ける斎宮さん。渡した以上、このチケットは斎宮さんのもの――なので、言わずもがな決定権は斎宮さんにある。であるからして、僕が口出しをする権利などもちろんない。ないのだけど――
【……えっと、その……日坂くんは、如何でしょう?】
そう、おずおずと答える。正直、この質問をしてくれたのは有り難い。尤も、僕から言わずとも最初から彼を誘うつもりだったかも――
「…………そっか、分かった。新里がそうしてほしいなら、そうする。……今日は、もう帰るね」
「……へっ? あ、はい……」
すると、僕の言葉に答えた後、さっと鞄を掴み教室を後にする斎宮さん。心做しか、その声は消え入りそうなほどか細くて。そんな彼女の背中を見送りながら、ズキリと身勝手な痛みを覚える僕で。




