選択
「あれ、朝陽くん。いったいどうしたのかな、こんなところで」
「あっ、えっと……その」
突如、おずおずと姿を現し尋ねる僕に少し驚いた様子の郁島先輩。だけど、すぐにあの穏やかな微笑を浮かべ尋ね返す。
……うん、咄嗟に出てきたはいいものの……具体的に何を言うかなんて、正直まるで纏まってなくて。……えっと、やはりまずは今の光景に対する説明を――
……いや、そもそもそんな必要があるのかな? 別に彼から説明など求めずとも、今の光景をそのまま斎宮さんに伝えれば良いのでは?
……もちろん、傷ついてしまうと思う。そして、それは容易く癒えないとも思う。それでも……これを機に先輩への想いを吹っ切れれば、それ以上の傷を残さずいつか新たな恋へ進むことも出来るはずだし、僕も出来うる限り力になるつもりだ。ならば……今、僕の取るべき選択は――
【……どうか、お願いします郁島先輩。どうか、どうか……斎宮さんの大切な想いに、真摯に向き合ってください】
「…………へ?」
そう、深く頭を下げ懇願の意を示す。すると、頭上から驚いたような声がそっと降りてくる。
……全く、自分の浅ましさが嫌になる。何が、先輩への想いを吹っ切れれば、だ。そんなの、僕が安心したいだけの――僕が傷つかずに済むだけの、身勝手で卑しい結論でしかない。斎宮さんの大切な恋心を、全力で応援し後押しする――元より、僕がすべき選択なんてこれより他にあるはずないというのに。
……ところで、嫌になると言えば……日坂くんに対しても、酷いことしちゃったな。応援するなんて言っておいて、結局はこうして……本当にごめんね、日坂くん。それでも……僕はやっぱり、斎宮さんの気持ちが何より大切で――
「……顔を上げなよ、朝陽くん。と言うか……君は、それで良いの? 俺みたいな人間に、大切な夏乃ちゃんを任せちゃっても」
黙考の最中、ふと柔らかな声が届き顔を上げる。すると、どこか呆れたような微笑を浮かべ尋ねる郁島先輩の姿が。そんな彼に対し、僕は再び筆を執り――
【……はい。僕なんかに、こんな知ったようなことを言われるのは不快にお思いになるかもしれません。それでも……誰かの大切な想いを、決して蔑ろに出来るような人じゃない――勝手ながら、僕は郁島先輩のことをそのように思っています】
「……まいったね。どうしてか、随分と評価されているみたいだ」
そう伝えると、少し困ったように微笑み答える郁島先輩。……まあ、それはそうだよね。知り合いと呼んで良いのかすら怪しい僕みたいな一後輩が、突然こんな知ったようなことを言い出すんだから。
だけど、どうしてか……本当にどうしてか、そんな確信があった。彼ならば、斎宮さんの大切な気持ちに真摯に向き合ってくれる――そんな、自分でも不思議なほどの確信が。




