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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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雨音だけの帰り道

「――あちゃー、やっぱり降ってきちゃったね」

【そうですね、斎宮さいみやさん。念のため、傘を持ってきておいて良かったです】



 三学期が始まり、二週間ほど経過した一月下旬のある放課後のこと。

 昇降口を出た辺りで、広く灰色を帯びた空を見上げながらそんなやり取りを交わす僕ら。今はまだ小雨程度だけど、この模様だと近いうちに強くなってくるのではと思う。降水確率はそれほど高くなかったけど、念のため持ってきておいて本当に良かった。



 ――すると、ほっと安堵を覚えたその時だった。


「……いやー、実は今日、傘忘れちゃったんだよねー。これからもっと降ってきそうだし、いやー困ったなー」


 どうしてか、僕の方と斜め上辺りに視線を彷徨わせつつそう口にする斎宮さん。心做しか、その口調もどこか棒読みに聞こえないでもない。


 ……いや、まあ気のせいだよね。ともあれ、そういうことであれば――


【そういうことでしたら、是非僕の傘をお使い――】

「あたしに傘を貸して、自分だけは濡れて帰るとかは絶対駄目だからね?」

「………………え?」

「そんな驚くようなこと言った!? むしろ、あたしがそれを容認すると思われてたことがすっごい心外なんだけど!!」

【あっ、いえそうではなく……ですが、そうなると如何いかがしたものやら。たった一本の傘で、斎宮さんと僕の双方共に濡れることなく無事帰宅する――そんな、かのエジソンもびっくりの画期的な妙案など果たしてこの世に存在するのかどうか――】

「うん、とりあえずエジソンに謝ろっか。馬鹿にしてごめんなさいって謝ろっか」

【へっ? いえいえ僕があの偉大なる発明家を馬鹿にしたことなど一度でもありましたか!?】

「いや知らないけど!?」




【――まあ、それはそれとして……ですが、実際のところこれといった案が浮かばないのもまた事実でして】

「……うん。何が驚きって、その馬鹿みたいな発言ことを本気で言ってるであろうことなんだよね。まあ、とりあえずもうちょっと考えてみてよ」


 そう、呆れたように再考を促す斎宮さん。えっと、妙案妙案……あっ。


「あっ、なにか思いついた?」


 すると、僕の様子から察したようで、どこか期待するような瞳を向ける斎宮さん。……うーん、確かに一応浮かんだのは浮かんだのだけども――


【……ですが、申し訳ありません斎宮さん。まだまだ至らぬ我が身ゆえ、学校ここから御宅までという短い時間でさえ結界を巡らせることも叶わ――】

「全く求めてないんですけど!?」




【……ですが、だとしたら、その……この比較的小さな一本の傘に入るよう、斎宮さんと僕が極力距離を詰めて歩くという、極めて突飛的かつ浮世離れな案を採用する他ないのですが……】

「うん、極めて現実的かつありきたりな案だと思うんだけど。あと、全くもってそれで構わないんだけど」

「………………へ?」

「いやだから本気でびっくりするの止めて!? なんかあたしが常識外れみたいに思えてくるから!!」

【いやー、やはり斎宮さんは僕のような凡人とは一線を画く才気溢れるお方で――」

「全くもって嬉しくねえよ!!」


 そう、いつもながらに刃物のごとく鋭いツッコミを続ける斎宮さん。……うーん、僕としては絶賛しているつもりだったんだけど……いやはや、人の心は甚だ難しいもので――


「うん、一人で達観するの止めてくれない?」





「――ほら、もっとこっちに詰めないと濡れっぱなしだよ新里にいざと

「……いえ、ですが――」

「……いいから、もっとこっち」


 そう言って、傘を持つ僕の右腕を取り自身の方へと引き寄せる斎宮さん。……あの、それだともうほとんど密着して――


 ……だけど、どうにも離してくれる気配もない。離したら逃げるとか思われてるのかな? ……いや、僕としてはもちろん嫌なはずもない。ないのだけど……その、さっきから心臓ここが耳をつんざくほどに脈を打って……聞こえてないかな?


 それから、暫し無言のまま家路を歩く僕ら。彼女から話し掛けてこないのは、この状態ゆえペンを握れない僕を気遣ってくれているのかな。ともあれ、先ほどから耳に入るはやはり少し強まってきた雨音だけ。……それでも、こんな沈黙もどうしてかすごく心地好くて。


 今日は、もうこのままで――そんな思考が脳裏を支配するものの……それでも、流石にそろそろ聞いておく必要があるよね。

 すると、何かを言いたげな僕の様子に気が付いてくれたのか、言葉を待つように僕の瞳をじっと見つめる斎宮さん。そんな彼女に対し、僕はどうにか声を発して――



「……あの、斎宮さん。その……本日、オチのようなものは――」

「何の話だよ」


 

 

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