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声にならない想いを乗せて  作者: 暦海


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聖なる夜に

 それから、斎宮さいみやさんに手を引かれ入ったのは――つい先ほどまで、彼女が凭れていた可愛らしい雑貨屋さん。もちろん、一緒に雑貨屋さんに入ること自体に何ら問題などないのだけど……ただ、彼女が僕の手を引いたまま入店しちゃうものだから、店員さんやお客さん達になんだか生暖かい笑顔を向けられてしまって……うん、なんかすっごい恥ずかしい。


 ともあれ、一緒に可愛らしい雑貨達を鑑賞しながら一回りした後、折角なのでお互い一つずつ選んでプレゼントしないか――そんな旨の提案を受け、些か逡巡しつつも最終的には承諾した。


 ……いや、もちろん嫌なわけではないのですよ? ですが、この僕が誰かに喜んで頂けるような物を選べる自信など、当然ながら皆無でありまして……はい、言い訳ですごめんなさい。



 さて、結論から申しますとそんな懸念は杞憂でした。と言うのも、それぞれ持ち時間5分で一人が待機している間、もう一人がプレゼントを探し回るといった具合だったのですが……なんと、互いに全く同じ雑貨もの――何とも可愛らしい白クマのキーホルダーを選択したわけでして。比較的小さな空間とはいえ、所狭ところせしと並んだその種類は決して少なくないと思うのだけれど。


 そんなわけで、思わずクスッと笑いが零れる僕ら。こういうのも良いよね――そんなやり取りを交わしつつ、全く同じプレゼントを互いに受け取って……うん、大切にしなきゃね。



「ところでさ、新里にいざと。そろそろ決めた?」

「……へっ?」

「ほら、例のお願いのこと。期末テストで、負けた方が勝った方のお願いを一つ聞くっていう勝負のこと。覚えてるよね?」

「……ああ、そう言えば」


 その後、ショッピングモールへ向かう道を歩いていると、ふと隣からそんな問いが届く。……ああ、そう言えばあったね、そんな話。


 だけど……正直、別にないんだよね、お願いなんて。これは、僕が無欲だからとかそういう話ではなく……ただ、もう既に貰い過ぎているから。今、こうして彼女が隣にいてくれることが、僕にとっては身に余るほどの幸運で……もう、これ以上ないほどに満たされているから。なので、


【……申し訳ありません、斎宮さん。まだ決めていないので、また後日でも宜しいですか?】


 ひとまず、そう尋ねてみる。お願いなんて何もないので気にしなくて良い――僕としては、そう伝えても一向に構わないのだけど……きっと、それだと彼女の方が納得いかないだろうから。だけど、彼女に負担を掛けず、かつ納得もして頂ける絶妙なお願いなんて今ぱっと降りてくる気もしないので、ひとまずはこれで――


「……まあ、それなら仕方ないね。でも、忘れないでよね。そして……いつか、ちゃんと聞かせてね? ――新里の、本当の願いを」

【……はい、承知致しました】


 そう、念を押すように僕の目をじっと見つめ告げる斎宮さん。……うーん、僕としては綺麗さっぱり忘れてくれても良かったんだけど……まあ、おいおい考えることにしよう。



 ……ただ、それはそれとして。


「……どうかした? 新里」

「あ、いえ……何でもありません……」

「……?」


 その後、歩みを続けていると再び隣から問いが届く。不思議そうに首を傾げる彼女に、僕は軽く首を横に振り答える。……しまった、表情かおに出てたかな。


 ……僕は、ここにいて良いのだろうか。日坂ひさかくんを応援するなどと言っておきながら、こうして彼女の隣で身に余るほどの幸せを享受する資格など、僕にあるのだろうか。……いや、それ以前にそもそも僕は彼女の恋を協力する立場で――



「――ほら、到着だよ新里!」

「…………へっ?」



 そんな自己嫌悪の最中さなか、ポンと肩を叩かれるとほぼ同時に弾んだ声が届く。……到着って、いったいどこに――そんな思考を遮るように、少し駆け足で前方へと進んでいく斎宮さん。そして、


「ほら、新里も早く早く!」


 そう、弾けた声で告げる。ぱっとこちらを振り返る彼女のすぐ後ろには、煌びやかなイルミネーションに彩られた一本の樹――本日、12月24日を象徴する大きなクリスマスツリーが静かに佇んでいて。


「「……あ」」


 ふと、僕らの声が重なる。二人して少し可笑しそうに笑い見上げた空からは、まるで聖夜を祝福するように不香ふきょうの花がはらりはらりと舞い降りる。そんな感慨深い光景を暫し眺めつつ、ゆっくりと視線を戻し――



「――っ!?」



 ――刹那、呼吸が止まる。視線の先――煌びやかな景色の中、純白に溶け込み可憐な笑顔を浮かべる彼女の姿は、まるで今にも消え入りそうなほど幻想的で……この世のものとは思えないほどに、綺麗だった。



『……いつか、ちゃんと聞かせてね? ――新里の、本当の願いを』



 ――ふと、彼女の言葉が蘇る。……本当の、願い。僕は、いったい何を――





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