今度は準備万端?
「――さて、前は色々あってドタバタしてたけど……今日こそは全力で楽しむよ、新里!」
【はっ、かしこまりました姉さん】
「誰が姉さんだよ」
それから、数日経て。
デンモク片手に弾んだ声を上げる斎宮さんに対し、ビシッと敬礼のポーズで答える僕。そんな僕らがいるのは、我らが日本の誇る偉大なレジャー施設、空オーケ……はい、ごめんなさいカラオケです。
さて、今しがた斎宮さんが言ったように、以前は色々とあり途中から楽しむどころではなかった。……いや、まあ実際にはあの窮地を脱した後、利用時間いっぱいまで楽しんだのだけど……とは言え、当然ながら何の懸念もなくただただ純粋に楽しめるのなら、それが一番なわけでして。
そういうわけで、少しでも懸念を減らしておくべく本日は事前に手を打っている。そっと隅の方へ視線を移すと、そこには先ほど受け付けにて拝借したあさいーセット一式が。これで、いつ何時でもキラッと変身……うん、願わくば出番がないに越したことはないけども。
「――よし、私の勝ちだね新里」
【はい、参りました斎宮さん】
それから、10分ほど経て。
そう、ビシッとVサインを向け無邪気な笑顔を見せる斎宮さん。嬉しそうで何よりです。
ちなみに、何のお話かと言うと――前回、予期せぬ出来事にて流れてしまった採点勝負についてです。僕の点数は94点。一方、彼女の点数は――96点。うん、やっぱり凄いなぁ斎宮さ――
「……ん?」
そんな感服の最中、ふと声が洩れる僕。どうしてか、先ほどまで笑顔だった斎宮さんが、何処か不服そうな表情でこちらをじっと見ていたから。……えっと、どうかしたのかな?
「……いや、さっきからずっと思ってたんだけど……実は、手ぇ抜いてなかった? 特に、最後の方とか」
【……へ? あっ、いえそんなことはありません!」
「ほんとにぃ?」
【もちろんです! 僕が今まで採点勝負で手を抜いたことがありますか!?】
「いや知らないけど!?」
……まあ、そりゃそうだよね。そもそも、採点機能を使ったこと自体これが初めてだし。
ただ、彼女の疑いも全く理解できないではない。遊びとはいえ、真剣勝負――もちろん、手を抜くなんて失礼なことはしない。しないけども……歌唱中盤の辺りで右上にパッと曲が表示されてから、ああ斎宮さん次はこれを歌うんだぁ、楽しみだなぁなんて考えてたら、終盤やや集中力が切れていた可能性は否めなくて……まあ、いずれにせよ僕が勝ってたなんて保証もないけども。
ともあれ、幸いあさいーちゃんの出番もなく、その後も存分に歌唱を楽しんだ僕ら。帰り道、また来ようねと眩いほどの笑顔で告げる斎宮さんに、僕も笑顔で答え頷いた。




