話題の映画?
そういうわけで(どういうわけで?)、数十分歩き映画館へと到着――そして、受け付けにて。
「――はい、学生2名さまですね。お客さま方はカップルで宜しいでしょうか?」
「はい!」
チケットを手渡すと、何とも素敵な笑顔で問い掛ける店員さん。うん、接客に携わる身としては僕も大いに見習わなければ。……まあ、接客自体ほとんどしないんだけども。
ところで、それにしても……随分と嬉しそうだなぁ、斎宮さん。返事の声が何とも弾んでいる。ひょっとして……そんなに食べたかったのかな、ポップコーン。それなら、僕の分もあげ……いや、あげるも何も元々斎宮さんからもらったんだけどね、このチケット。
「はい、ありがとうございます。それではこちらからお一つずつ、お好きなポップコーンを選んでくださいね」
「はい、ありがとうございます!」
「……あ、ありがとうございます」
ともあれ、和やかな店員さんの言葉を受け、どれにしようかとワクワクしながらやり取りを交わす斎宮さんと僕。ふと顔を上げると、店員さんが少しだけ可笑しそうに暖かな微笑を浮かべていて。……うん、なんかちょっと恥ずかしいね。
まあ、それはそれとして、どんなラインナップかと言いますと――タピオカ味、ナタデココ味、マリトッツォ味……うーむ、正直どれも味の予想が全くつかない。塩やキャラメルといった定番の選択肢はないようなので、こちらから選ぶ他ないのだけど――うん、無難にタピオカかな。
「……いや、何と言うか……凄いね新里。この選択肢を前に、何の抵抗もないどころか嬉々としてるとか……どんだけ好奇心旺盛なの?」
ふと、声を潜めて問い掛ける斎宮さん。……あれ、ワクワクしてるの僕だけでした?
ともあれ、それぞれポップコーンを片手にシアターへと向かう僕ら。ちなみに、斎宮さんは暫し悩んだ末マリトッツォ味を選んだのだけど、もし口に合わなかったら僕にくれるとのこと。うん、もしそうなったらその時は有り難く頂くけども、願わくばお気に召し……まあ、僕が作ったわけでもないけど。
「いやー、楽しみだね。果たして、どんな奇抜な作品なんだろ」
【そうですね、斎宮さん。実は、僕もそこを期待してました】
シアター内にて、ポップコーンを摘みつつ無邪気な笑顔で話す斎宮さん。良かった、今度はほんとに楽しそうだ。
……ところで、それにしても……意外と食べてるね、マリトッツォ味。意外と美味しいのかな?
まあ、それはともあれ彼女の期待は僕も大いに理解できる。なにせ、本当にごく一部の映画ファンの方々の中で話題――となると、一風変わったお話であろうことまでは想像に難くない。そして願わくば、僕なんかの想像も及ばないような、一風どころか何風も変わったお話であることを大いに期待して……まあ、何風なんて言い回しがあるのかどうかは定かでないけども。
――それから、およそ二時間後。
「……うん、何て言うか……想像以上だったね」
「……はい、そうですね」
1時間40分の映画を終え、ひとまず近くの喫茶店へと移動した僕ら。昭和の雰囲気漂う、大変居心地の良い純喫茶。それから注文を終えた後、真っ先に出てきた感想が上記なわけでして。
……うん、何と言うか……斎宮さんも言ったけど、本当に想像以上でした。とりわけ、ラスト10分くらいが。そもそも、序盤からツッコミどころには困らなかったけど……まあ、そこに関してはひとまず割愛するとしまして。
さて、肝心の展開はといいますと……互いに浮気がバレたカップルと、それぞれの浮気相手の四人による話し合いが行われる――これが、ラスト10分前の場面。まあ、これ自体は別段珍しい展開でもないと思う。
……ただ、ここからが想像以上だった。どうなるのかとハラハラして見つめていると、画面越しにもひしひしと伝わっていた張り詰めた空気が、ものの数分ですっかり弛緩――そして大いに意気投合し、最終的にはなんと四人で付き合おうという結末に……うん、流石にぽかーんですよね。なるほど、これは話題になるかもね……ごく一部では。
「……ふふっ」
「……あの、斎宮さん……?」
すると、突然可笑しそうに声を洩らす斎宮さん。いったい、どうしたのだろ――
「いや、なんか楽しいなぁって。こう言ったらなんだけど、こういうちょっと変わった話を共有できる相手がいるって良いなって、改めて思った」
「……そう、ですね」
そう、クスッと笑い話す斎宮さん。そんな彼女の表情は、言葉通り本当に楽しそうで。……うん。僕も楽しいよ、斎宮さん。ほんとに……凄く楽しい。
それから、僕らは時間も忘れ暫し閑談に花を咲かせた。いやー、ああいう奇抜なお話ってネタに困らないから、実は結構助かるんだよね。




