斎宮夏乃
……まあ、それはそれとして。
「……何? さっきから、じっとこっち見て」
「あっ、いえ……その……」
卒然、右隣の席から僕の方をジトリと見つめそう問い掛ける女子生徒。……いや、卒然でもないか。そもそも、僕が彼女の方をじっと見ていたわけだし、そりゃ怪訝に思……と言うより、普通に気持ち悪いよね。
未だ何も答えられないでいる僕に、鋭い視線を向け続ける彼女は斎宮夏乃さん――鮮やかな栗色のボブカットに、水晶のように透き通る瞳を宿す、クラスのみならず学年でも評判の美少女です。
そんな彼女であるからして、当クラスにおいてやはりトップカースト――今も談笑を続けている、リーダー的存在の彼らと一緒にいることが多い印象がある。なので、彼女も遊びに行かなくて良いのかな――なんて、何とも余計なことを考えていた次第でして。
「……なにもないなら、もういくね」
「……あ、えっと……はい」
すると、暫し間があった後、呆れたような溜め息と共に徐に立ち上がり歩いていく斎宮さん。そして、扉付近にてこちらを一瞥し教室を後にし……しまった、せっかく待ってくれていたのに、結局何も言えなくて。……うん、ほんとにごめんなさい。