……むしろ、焦っている?
「…………へ?」
唐突な日坂くんの問いに、呆然と声を洩らす僕。……だけど、同時にすっと腑に落ちる感覚もあって。
……なるほど、斎宮さん絡みか。それなら、まるで接点なんてなかったはずの僕の名前を知っていることも、こうして今もありありと敵意の籠もった瞳を向けられていることも合点がいく。
……ただ、それにしても……日坂くんは、どこで僕らの接点に気が付いたのかな? 誰にも見つからぬよう、努めて隠密に動いていたはず……いや、そうでもないか。思い返せば、わりと目立つ行動もしてたよね、僕ら。
まあ、それはそれとして……果たして、何と答えるべきだろう。そもそも、言わずもがなきちんと声を発する気もしないので、例のごとく筆記にて説明する他ないのだけど……果たして、受け入れてくれるかな? 不快にさせてしまったりしな――
「……あ、えっと……」
ふと顔を上げると、やはりと言うかじっとこちらを凝視する日坂くん。……しまった、待たせちゃってるよね。とにかく、何か――
【……えっと、僕は斎宮さんの……その、こう言っては烏滸がましいとは承知していますが……友人、なのだと思います。……あっ、でもお付き合いしているとか、そういうことは全然ないので! なので、そこに関しては誤解しないで頂けると助かりま……いえ、するわけないですよね。僕なんかが、彼女と……そんなこと、客観的に見てもまずあり得ないでしょうし】
強い緊張を覚えつつ、どうにかペンを走らせそう伝える。すると、真剣な表情で僕の文章を黙読する日坂くん。……なんか、随分と言い訳がましくなっちゃったな。
……それでも、最低限伝えるべきことは伝えられたのかなとは思う。当然ながら、斎宮さんに迷惑を掛けることは出来うる限り避けなければならないし……それに――
「――やっと見つけた!」
「…………え?」
卒然、少し遠くから馴染みの声が耳に届く。声の方向へ視線を向けると、そこには――
「……ねえ巧霧。新里に何を言ったの? そもそも、あんな目立つ中急に連れ出すとかあり得ないでしょ。新里みたいに、そういうの苦手な子もいるんだからね」
少し息を切らしつつ駆け足でこちらへ到着するやいなや、まるで糾弾するように日坂くんへ捲し立てる斎宮さん。……えっと、怒っている? ……いや、それもあると思うけど……むしろ、焦っている?
ただ、いずれにせよ此処に来た理由は多少なり察せられる。今しがたの言葉から鑑みても、やはり日坂くんとは見知った間柄――それも、単なる知り合いではない間柄というのは容易に察せられる。だとしたら、日坂くんが僕を呼び出した理由に恐らく彼女が絡んでいるであろうこともすぐさま察したことだろう。
そして、日坂くんと僕のやり取り次第では、斎宮さんと僕の関係に関し何かしら誤解――具体的には、僕らが付き合っているなどという誤解を、日坂くんに与えてしまう可能性も否めない。そうなれば、誤解が巡り巡って郁島先輩の耳に入ってしまう可能性も、やはり皆無とは言えないわけで――
「――何を言った? おいおい、何をそんなに焦ってんだよ夏乃。中学時代、俺達が付き合ってた――それをバラされるのが、そんなに嫌なのか?」
「…………へ?」




