ずっと言いたかったこと?
ともあれ、三河さんの問いに答えなければ。尤も、問われたのは僕でなく斎宮さんだけど……彼女もまだ完全には困惑から抜け切っていないだろうし、ここは僕が――
「――いやー、そうなんだよ! あ、でも友達っていっても多分、今日しか会わないっていうか。たまたま今日会おうってなっただけで、多分もう二度と会うこともないかなーなんて、あはは……」
いや雑っつ!? 友達の扱い雑っつ!! あははじゃないよ斎宮さん!! ……いや、言わんとすることは分かるけども。万が一にも今後、友達も呼んで一緒に遊ぼうなどと言われないよう先手を打ったんだろうけども。
……ただ、それにしても不自然が過ぎる。思った以上にパニックしてるなぁ斎宮さん。こう言っては大変申し訳ないけど、流石にあんな下手なごまかしが通用するわけ――
「あー、あるよねそういうの。あたしもしょっちゅうだし」
いやあるんかい。しかもしょっちゅうあるんかい三河さん。さっきまで彼女に同意を示していたはずの小林くんも、更には自分で言い出したはずの斎宮さんまでもが反応に困っちゃってますよ。
ともあれ、どうにか奇跡的にごまかせたことは僥倖と見做すべきだろう。さて、ここからなるべく自然にこの場を――
「……ところでさ……友達は名前、何て言うの?」
「……え、あ、えっと……」
……うん、そうなるよね。なんで考えてこなかったんだろ、僕。
ところで……そう尋ねた小林くんの様子に、少し違和感というか……何処か面映ゆそうな様子すら見受けられるのは、僕の気のせ――
……いや、それよりも今は名前だ。えっと、新里だから……古里? それで、朝陽だから……例えば、朝子とか――
「――えっと、古里……あさいーちゃん!」
「あさいーちゃん!?」
いやどちら様!? なんかスーパーフードみたいになってますけど!? ……まあ、自分の名前を答えるのにモタモタしてる僕が悪いんだけども。悪いんだけども……それでも、流石にそのセンスは如何なものかと。
……あっ、万が一にも同名の方がいらっしゃったら大変申し訳ないけれど……いないよね?
一方、苗字の方は同じ発想に至ったことに場違いな喜びを覚えつつお二人の反応を待つ。ただ、斎宮さんには申し訳ないけど……正直、厳しいかなぁと。そもそも、当のあさいーちゃんたる僕自身が驚いちゃってるわけだし、流石に通用するとは――
「……そっか、あさいーちゃんか。……すっごく、素敵な名前だね」
……うん、通用しちゃったよ。どころか、素敵な名前だなんた言ってもらえて……優しいなぁ、小林くん。
「……とにかく、今日はもう行こうぜ彩華。これ以上、二人を困らせるわけにもいかないし」
「えっ、でもさっきはそんなこと……まあでも、勇人がそう言うなら」
「じゃあな、夏乃……と、あさいーちゃんも……」
「……へっ? あ、はい……」
そう、何処か覚束ない笑顔で言い残し去っていく小林くん。そんな彼に、三河さんもすぐ後をついていく。えっと、ひとまず助かった……のかな? まあ、何はともあれ――
「……それでは、行きましょうか斎……ん?」
行きましょうか斎宮さん――そう伝えようとするも、ふと言葉が止まる。どうしてか、少し目を逸らし控えめに僕の裾を掴む彼女の姿があったから。……いったい、どうしたの――
「……その、ありがとね……新里」
「……いえ、少しでもお役に立てたのなら幸いです」
そう、目を逸らしたまま伝える彼女に何とも有りふれた返答をする僕。そして、不思議とこの時はすっと声を出せた自分にさほど驚きはなくて。
「いやー、それにしてもほんと焦ったよ。一応、警戒はしてたつもりなんだけどね」
【……まあ、そこまで広い場所ではないですし、出会してしまう可能性は十分にありますよね】
その後、ひとまずは緊張の糸が切れ、ゆったりやり取りを交わす斎宮さんと魔法少女あさいー。いやーやっぱり筆記は落ち着くね。
【……ところで、斎宮さん。これからどうし――】
これからどうしましょう――ふと、そう記そうとした右手が止まる。どうしましょうというのは、まだカラオケに残るかどうかということ。利用時間はまだ残っているので、些か勿体ない気もするけど……とは言え、ここに残るリスクが全くないわけではない。なので、彼女がやはり不安だと言うなら、本日はこれにてお開きにすることも視野に入れての質問だったのだけど――
「…………」
【……あの、斎宮さん? これから、どうし――】
「…………」
再度、同じ質問を掛けようとして――再び、その手が止まる。どうしてか……本当にどうしてか、僕の文章に途中まで視線を注いだ後、何も言わずそっぽを向いてしまうから。……あれ、なにかまずいことしたのかな。でも、今の流れの何処に――
(…………別に、戻さなくて良いのに)
【……あの、斎宮さん。戻すって、いったい……】
「…………別に、なんでもない」
すると、何処か不服そうな口調ではあるものの、ようやく返事をくれた斎宮さん。何の話かやはり気に掛かるものの、それについては答えてくれそうな様子もないのでこれ以上の詮索は控えるべきだろう。
「……ところでさ、新里。さっきから、言おう言おうとは思ってたんだけど……」
すると、何処か躊躇う様子でそう口にする斎宮さん。彼女の方から話し掛けてくれたことには、ひとまずほっと安堵を覚えつつも……いったい、どうしたのだろう。なにか、言いにくいことなのかな――
「……その、何て言うか……びっくりするくらい似合ってるね、女装」
「…………へ?」




