――でも、心配しないで氷兄。
『まあ、個人的には『お前に夏乃は渡さない!』――みたいに言われる展開を期待していたんだけど……でもまあ、やっぱり良い子だね、朝陽くんは』
「……うん」
そう、楽しそうな――それでいて暖かな声音で話す氷兄に対し、沁み沁みと同意を示すあたし。……あっ、同意っていうのはあくまで後半部分に関してであって……まあ、前半のような展開を全く期待してなかったかと言えば……うん、それは嘘になるけども。
……でも、流石にそんな展開はないかな。それは、もし彼が多少なりともあたしにそういう感情を抱いてくれているとしても、やはり事情は同じで――
だって――彼は、どうあっても自分を優先できない人だから。だから、自分の気持ちを押し殺してでもあたしの気持ちを――あたしの幸せを、一番に優先してくれる。
だけど……だったら、あたしのすべきことは単純明快――ただ、ありのままの想いを素直に伝えればいい。そうすれば、きっと彼はあたしの望む答えを返してくれるから。
……でも、それはしないと決めている。自分でも、ずるいなとは思う。それでも……あたしの気持ちじゃなく、きちんと彼が自分の気持ちを一番に優先した上で、あたしの気持ちを受け入れてほしい。そして、そのためには――
「――でも、心配しないで氷兄。誰かの幸せとか、誰かを傷つけるとか心配する余裕なんてなくなるくらい――いつか、あたしのことを好きになってもらうから」
――だから……覚悟しててね、朝陽?