……別に、泣いてなんか……
「それにしても、ほんとに素敵だよねあのお店。蒼奈さんもご両親もすごく優しいし、初めて入ったけど店内の雰囲気も、これぞ日本の美って感じの和風の――」
「……え?」
「……あっ、これじゃ伝わらないか。いやー自分でも語彙力ないなあって」
「……あっ、いえ、そうで……」
そうではなくて――たったこれだけの言葉が出ない自分に、いつも以上のもどかしさを覚える。
ところで、僕が気になったのは……初めて入った、という部分で。求人なんて検索すれば無数に出てくるにも関わらず、募集をかけていないお店に直接希望を伝えに来るくらいだから、てっきり相当に思い入れがあるのかと――
「……あのさ、新里。別に、いつでも紙に書いてくれれば良いんだよ? 仕事中だけじゃなく、それこそ学校でも」
「…………へっ?」
「……貴方のことだから、時間が掛かって相手をイラつかせちゃったりしたら申し訳ないとか思ってるんだろうし、実際イラついちゃう人もいるんだろうけど……あたしは、気にしないから」
そう、真っ直ぐに僕の目を見て告げる斎宮さん。そんな彼女の言葉に、僕は――
「……あれ、泣いてんの? 新里」
「……い、いえ……」
すっと口角を上げ、揶揄うような笑みで尋ねる斎宮さん。……別に、泣いてなんか……少し、ほんの少しだけ、瞳が湿りを帯びちゃってる気がするだけです。