……まあ、分からないでもないけど。
さて、そんな頗る心地の好い雰囲気に水をさすのもどうかなとは思うのだけど――
【……ところで、斎宮さん。些か言いづらいことではあるのですが、そろそろ――】
「ああそうだ新里、久々に将棋しようよ将棋! あっ、オセロでもいいけど!」
逡巡しつつそう切り出してみると、僕の言葉の終わらぬ間に遊戯の提案をする斎宮さん。少し慌てたこの様子だと、恐らくは僕が何を言おうとしていたか察していることだろう。
……まあ、気持ちは分からないでもないけど。やっぱり、いざとなったらなかなか勇気が出ないこともあるだろうし。……尤も、僕の場合はいざとならなくても出る勇気なんてないんだけど。
……まあ、今は僕のことはさておき……気持ちは分からなくはないと言っても、もう二月下旬――即ち、三年生が登校する日にちは随分と限られてしまっているわけで。なので、流石にそろそろ――
「――斎宮夏乃ちゃん、だよね? 今、ちょっといいかな?」
「「…………へ?」」
瞬間、僕らの声が重なる。見ると、彼女は雷にでも打たれたような衝撃の表情で扉の方――正確には、そこに佇む美男子の姿に釘付けになっている。
――まあ、それもそうだろう。それに、きっと僕も似たような状態だろうし。そして、そんな僕らに対し少し可笑しそうな微笑を浮かべつつ――息を呑むほどに鮮麗なその美男子は、柔らかな口調で言葉を紡ぐ。
「きっと知ってくれているとは思うけど、一応――俺は三年五組の郁島氷里。よろしくね、夏乃ちゃん?」