やっぱり複雑?
まあ、それはともあれ……肝心のお味はというと――
「……うん、すっごく美味しい」
そう、箱を開いた際と同じような感想が口をつく。うん、分かってはいたけど……それでも、思ってた以上にほんと美味しい。美味しいんだけども……うん、やっぱりちょっと複雑かも。
……まあ、そうは言っても断然嬉しいには違いないんだけど。凄く美味しいのもそうだけど……それ以上に、彼があたしのために一生懸命作ってくれたという事実だけで、そもそも嬉しくないはずがないわけで。
……ところで、それはそれとして……誰か他の人にも渡してたりするのかな、このチョコ。……いや、流石にないよね。失礼ながら、彼に限ってご家族以外に渡す人なんて……あっ、でも巧霧にならあり得るかも……まあ、巧霧ならいっか。
「……さて」
数分後、そんな呟きと共に徐に立ち上がる。そして部屋を後にし、階段を降りキッチンへ。それから、冷蔵庫の真ん中辺りに半分ほど中身の残った白い箱をそっと乗せる。一度に食べるのは勿体ないからね。
だけど、これが今厨房に来た主たる理由ではない。白い壁のフックから、淡い桃色のエプロンを取りさっと身に着け準備を始める。昨日はあまり上手く……いや、他人様にお渡し出来ないような仕上がりではなかったけども……それでも、どうしても納得のいくものが出来なかったから。どうしても……彼だけには、会心の出来で受け取ってほしいから。だから――
「――さあ、首を洗って待ってろよ朝陽!」