雨音だけの帰り道
「――ほら、もっとこっちに詰めないと濡れっぱなしだよ新里」
「……いえ、ですが――」
「……いいから、もっとこっち」
そう言って、傘を持つ僕の右腕を取り自身の方へと引き寄せる斎宮さん。……あの、それだともうほとんど密着して――
……だけど、どうにも離してくれる気配もない。離したら逃げるとか思われてるのかな? ……いや、僕としてはもちろん嫌なはずもない。ないのだけど……その、さっきから心臓が耳をつんざくほどに脈を打って……聞こえてないかな?
それから、暫し無言のまま家路を歩く僕ら。彼女から話し掛けてこないのは、この状態ゆえペンを握れない僕を気遣ってくれているのかな。ともあれ、先ほどから耳に入るはやはり少し強まってきた雨音だけ。……それでも、こんな沈黙もどうしてかすごく心地好くて。
今日は、もうこのままで――そんな思考が脳裏を支配するものの……それでも、流石にそろそろ聞いておく必要があるよね。
すると、何かを言いたげな僕の様子に気が付いてくれたのか、言葉を待つように僕の瞳をじっと見つめる斎宮さん。そんな彼女に対し、僕はどうにか声を発して――
「……あの、斎宮さん。その……本日、オチのようなものは――」
「何の話だよ」