本当の願い
「ところでさ、新里。そろそろ決めた?」
「……へっ?」
「ほら、例のお願いのこと。期末テストで、負けた方が勝った方のお願いを一つ聞くっていう勝負のこと。覚えてるよね?」
「……ああ、そう言えば」
その後、ショッピングモールへ向かう道を歩いていると、ふと隣からそんな問いが届く。……ああ、そう言えばあったね、そんな話。
だけど……正直、別にないんだよね、お願いなんて。これは、僕が無欲だからとかそういう話ではなく……ただ、もう既に貰い過ぎているから。今、こうして彼女が隣にいてくれることが、僕にとっては身に余るほどの幸運で……もう、これ以上ないほどに満たされているから。なので、
【……申し訳ありません、斎宮さん。まだ決めていないので、また後日でも宜しいですか?】
ひとまず、そう尋ねてみる。お願いなんて何もないので気にしなくて良い――僕としては、そう伝えても一向に構わないのだけど……きっと、それだと彼女の方が納得いかないだろうから。だけど、彼女に負担を掛けず、かつ納得もして頂ける絶妙なお願いなんて今ぱっと降りてくる気もしないので、ひとまずはこれで――
「……まあ、それなら仕方ないね。でも、忘れないでよね。そして……いつか、ちゃんと聞かせてね? ――新里の、本当の願いを」
【……はい、承知致しました】
そう、念を押すように僕の目をじっと見つめ告げる斎宮さん。……うーん、僕としては綺麗さっぱり忘れてくれても良かったんだけど……まあ、おいおい考えることにしよう。