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公爵令嬢と王太子殿下と聖女様 見守る私は侍女でございます  作者: お冨


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7/8

お茶会は王宮で

 王宮が会場なのに、優雅なお茶会はどこ行った。


 何と言う事でしょう。あの聖女様が、伯爵令嬢になりました。野心家のランドール子爵が、伯爵に陞爵したからです。


 我がデルスパニア王国では、事細(ことこま)かに叙爵、陞爵の要件が(さだ)まっています。例外は国王陛下が認める特別な功績のみ。

 貴族学園の必須科目として全学生が学ぶ常識です。条件さえ整えれば誰もが上を目指せるのです。そこに恣意的な権力のごり押しは通用しません。その筈ですが。


 ランドール伯爵の功績は、聖女様を輩出した事になっています。何ですかそれは。

 

 聖女様の家だから。そんな理由は前代未聞です。

 そもそも聖女様なんて、今まで聞いた事がありませんでした。聖女様を国として公に認めたという事なのでしょうが、納得しきれません。


 あろうことか、近衛騎士の皆様方が、こぞって聖女様に(はべ)っているとか。

 王位継承権を持つ高位貴族でいらっしゃるのに、なんという(てい)たらくでしょう。挙句、王太子殿下までたぶらかされているなんて。


 お嬢様もお怒りです。殿下へ物申(ものもう)すため、王宮に乗り込まれます。もちろん、私もお供します。

 首を洗って待っていらっしゃれば良ろしいのですわ、王太子殿下。




 お嬢様は王太子殿下の婚約者です。セリアム公爵令嬢でいらっしゃいます。なのになぜ足止めされなくてはならないのですか。

 人払いですって。聖女様と二人きりでお会いになっている? 近付く許しがないなんて、そんな言い訳が通じるとでも。


 そもそも二人きりなど言語道断。婚約者のお嬢様でさえ、私か他の者が必ず同席いたします。これは厳重に抗議しなければ。

 そこをどいていただきましょうか。



 

 王宮のさらに奥、王族方の専用スペースに(もう)けられた瀟洒なお部屋に、王太子殿下がいらっしゃいました。

 聖女様も同席していらっしゃったのですが。


 思わず二度見してしまいました。

 王太子殿下をたぶらかす妖艶な美女だと、私は無意識に思い込んでおりました。ですが、そこにいらしたのは、まだ幼い少女でした。


「初めまして、ミリア・ランドールです。ランドール伯爵家の長女、十二歳になります」

 わざわざ椅子から立ち上がり、ちょこんとカーテシーのまねごとをされる聖女様。

 お嬢様の淑女としての完璧なカーテシーとは比べ物になりませんが、年齢、そして出自を考えれば、充分礼にかなっています。

 

 お嬢様も作り物ではない笑顔で挨拶を交わされました。王太子殿下は苦笑交じりで、お嬢様にも椅子を勧めていらっしゃいます。

 私はお茶の用意をするべく、席を外しました。


 全く、王宮の使用人は何をしているのでしょう。いくら人払いを命じられたからと言って、お嬢様が席に着くと同時にお茶をお出しするくらいできなくてどうするのです。


 ティーセットを乗せたワゴンを押して戻ると、お嬢様がお話なさっていらっしゃいました。

 その、目が据わっていらっしゃいます。ちょっと怖いです。 


「そもそも、聖女様を拘束なさるとはどういう了見でいらっしゃいますの。独り占めなんてずるいですわ」

「いや、私は虫よけ役を務めているだけだよ。今、ランドール伯爵は天手古舞だから、その隙にミリア嬢とお近付きになろうという有象無象が湧いていてね」

「そんなことは分かっておりますわ。王家の意向で、殿下が率先してお手伝いなさったらいかがと申しておりますのよ。将来の国王として、一から伯爵領を整える経験は得難いものになりますでしょう。そちらに専念される方が有意義ですわ」


 (おっしゃ)る通りです、お嬢様。王太子殿下が子守りを成さる必要はございません。


「おいおい、それは官僚の仕事だ。それに、侯爵家以上の家は(わきま)えている。オスカー卿の手伝いに邁進しているよ。直接ミリア嬢に接触しようとしているのは伯爵家以下。問答無用で追い払うには、王族が一番効果的だ。そもそもこの場には入ってこれないしね」


「それで聖女様を軟禁していると(おっしゃ)るの。それにミリア嬢なんて馴れ馴れしい。聖女様、そうでなくてもミリア様と仰い」


 その通り。年端の行かぬ少女相手でも、女性には違いありません。適切な距離感は大切です。婚約者の目の前なら、尚更です。


 呼吸を計って、お茶をお出ししました。聖女様には、ミルクをたっぷり入れて。


「ありがとうございます。とっても美味しいです」


 私のような使用人にもにっこり笑って感謝の言葉をいただけるとは。

 思わず頬が緩みました。なんて良い子なんでしょう。ご本人を知らず噂だけで敵愾心を燃やしていたのが恥ずかしいです。


 お嬢様が、音を立てずにティーカップを下ろされました。


「聖女様は唯一無二。いくらでも替えの利く王族ごときが都合を押し付けるなど不敬の極み。王位継承権保持者が何人控えているとお思いかしら。弁えなさいませ」

 お、お嬢様。それは言い過ぎでは。


 殿下は無言で両手を挙げられました。降参のポーズです。


「貴女の言う通りなんだけれどね、聖女様は形式張ることが苦手のご様子。それこそ、都合の押し付けになるんじゃないかな。(くつろ)いでいただく方が重要だと思わないかい」


 おお、殿下がお嬢様を押し返しています。


 フフッと聖女様が笑い声をこぼされました。

「喧嘩するほど仲が良いって、本当ですね。遠慮なく言い合えるって、素敵です。ケンカップルかな」


 けんかっぷるとは何でしょう。知らない言葉です。




 気が付けば、私は聖女様と親しくお話する役目を(うけたまわ)っておりました。

 一言だけ。


 どうしてこうなった。







 


 やっとここまで。

 今回のストーリーの内容で正月特番の短編になる予定でした。ちょっと気を抜くと長くなっちゃうんですよね。あと一話、スウェン・カスター伯爵令息とのその後を書いて締めくくりたいです。


 次はマーク君か、リアーチェ侯爵令嬢か、どちらから再開しましょうか。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり公爵令嬢は舞台裏をご存じだったんだな 王族だからと船長閣下を独り占めはズルいということですね ケンカップルはいいぞw
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