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スウェン・カスターの後悔

 諦めました。今月中には終わりそうにありません。あっちもこっちも中途半端にしたくないので、完結まではこの話を進めます。

 つくづく、お冨に短編は向いてませんでした(;^_^A

 僕はスウェン・カスター。カスター伯爵家の次男に生まれた。高位貴族の端くれではあるけれど、そう良いものではない。

 跡取りの兄に万一の場合があった時のためのスペアとして教育を受ける日々。自分の将来のために準備する時間は与えられない。それが許されるのは、兄が結婚して子供が産まれてからだ。


 家から独立すれば、仕事も婚姻も自由にできる。ただし、身分は騎士爵か準男爵になる。一代限りの下級貴族、子の代からは平民だ。

 このルールは全ての爵位に共通していて、世襲可能な中位貴族に陞爵するには、自身で功績を立てなければならない。


 世間には子爵や男爵出身の騎士爵持ちがごまんといる。そんな中で、身を立てられるのか。

 僕には無理だ。世間知らずの伯爵家のお坊ちゃんだって自覚している。厄介なことに叩き込まれた貴族の矜持が邪魔をして、名ばかり貴族の平民生活は送れそうにない。


 大人しく家に残って、兄の補佐をするしかない。そう思っていた僕に、縁談が転がり込んできた。

 相手は裕福な子爵家の一人娘。家督を継ぐのは女子爵になる妻だけど、僕は子爵を名乗れるし、子供に跡を継がせられる。

 こんな好条件、滅多にない。多少本人に問題があっても政略結婚だ、いくらでも目をつぶろう。そう覚悟していた。


 縁談相手の令嬢は、良い意味で予想外だった。華やかな美人ではないが整った顔立ちで、落ち着いて丁寧に話す女性だ。浮ついたところが無く、恋愛には向かなくても結婚相手としては理想的だろう。

 そう思ったのは僕だけではなく、複数の婿候補が現れた。全員伯爵家出身で競争相手だった。


 花束、メッセージカード、ちょっとした小物。

 兄や義姉のアドバイスを貰いながら、せっせと口説いていたんだ。令嬢だって満更じゃなかったはずだ。それなのに。





「この、馬鹿者が。なんてことをしてくれたんだ」

 父の怒鳴り声に、僕は小さくなるしかなかった。


 縁談相手の子爵令嬢に、年の離れた弟が産まれた。婿養子に入る話がなくなるかも知れない。そんな焦りが、酒の席で出てしまった。


「令嬢と結婚して、産まれたばかりの弟を亡き者にだなどと、立派な犯罪だ。それを公言するとは何事だ」

「そんな。公言なんてしてません。ただの戯言です。本心じゃありません」


 ただの愚痴だったんだ。本気じゃない。実行しようなんて、これっぼっちも考えてない。


「そんなことは分かっとる。お前にそんな度胸がないことはな。だが、他に実行しようとする者が出てきたらどうする。お前の考えが切っ掛けだと言われても否定できんのだぞ」

「そんな」


 ただの冗談だったのに。いったい誰だ、僕の上げ足を取りに来たのは。ライバルの誰かか。


「幸い、子爵家は表ざたにしないでくれている。醜聞を立てたくないとな。だが、お前にお咎めなしと言う訳にはいかん。誠意を見せねば、我が伯爵家の付け入る隙になる。分かるな」


「………はい」

 この縁談、辞退するしかないだろう。このまま家に残って兄の補佐をするのか。


 カスター伯爵家の従属爵位に、当主の弟専用の男爵位がある。今は父の弟、叔父さんが持っている爵位だ。

 叔父さんが亡くなるか、兄に代替わりしたタイミングで本家に返上される。それを貰って、甥っ子が当主になるまでの間、男爵として過ごすことになるんだろう。


「お前を家から出す。王都で近衛兵になれ。建前上は伯爵家令息のままでいられるぞ」


 思ったより厳しい処分に、僕は思わず顔を上げた。目に入ったのは、父の険しい顔。


「侯爵家の居候だ。衣食住の心配はない。王宮に出入りすれば、逆転の目を探せるかもしれん。どうしても飼い殺しが嫌なら、騎士爵として独立する道もある」


 父の苦い口調に、完全に見捨てられた訳ではないと感じた。

 そうだな。身から出た錆だ。貴族籍から除籍されなかっただけマシかもしれない。


 廊下に出ると、兄が立っていた。

「十年、辛抱しろ。それだけ経てばほとぼりも冷める。家に戻って良いぞ」


 そうか。十年か。長いな。

 ただの失言の代償には理不尽過ぎるけど。兄さんや義姉さんに迷惑はかけられないか。


「ごめん、兄さん」

 僕はそれしか言えなかった。




 近衛兵として過ごすこと数年。王宮に相応しい態度や言葉遣いを身に付けて、貴族街の警備の仕事もそつなくこなせるようになった頃。

 夜会の会場で、僕は運命の再会を果たした。

 公爵家の侍女のお仕着せに身を包んだ彼女は、昔より凛々しく、輝いて見えた。


 彼女との縁を捨てるなんて、なんて僕は愚かだったんだろう。いや、まだ遅くないかもしれない。


 一縷の望みを胸に、僕は声を掛けた。






「これは、ワージー子爵令嬢ではありませんか」







 根っからの悪人が居ないのはお冨仕様です。

 お兄さんの悪人バージョンは、戻って来いと希望を持たせておいて大人しく従わせ、結局見捨てるというもの。考え付きはするんですけど、そんな話、書きたくねぇ(笑)


 次話から、聖女様絡みの話に行こうかな。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 曲がりなりにも伯爵家の人間なのに脇が甘い 家督に関すること、しかも婿入り先のことなのに迂闊なことをいえばどうなるかなんて想像できないのはあかんなぁ
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