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伯爵令息

なかなか聖女様までたどり着きません。今月中に終われるだろうか。

 夜会はまだ続いています。いつまでも休憩しているわけにはいきません。お嬢様と王太子殿下に従って会場に戻りました。

 壁際の定位置に控えたのですが、そこには近衛兵のスウェン・カスター様が待っていました。


 近衛兵は自領軍の指揮官という建前で王宮に伺候しています。 

 御下命あれば直ちに自領軍を動かして武功を挙げる。そのチャンスを待つ間、王宮の警備をするというのが、元々の形でした。

 あくまで平時の片手間仕事。言うなればボランティアです。どこからも給与は出ません。


 いくらでも戦功を稼げた戦乱の時代ならいざ知らず、それでは生活できません。

 ではどうするか。

 寄り親の公爵家や侯爵家に居候(いそうろう)しているのです。


 衣食住を提供してくださる寄り親への恩返しとして、近衛兵は旧市街、通称貴族街の警備を担います。そこに雇用関係は存在しません。主君は国王陛下ただお一人です。

 建前上は。


「感謝いたします、アンジェリン嬢。かばっていただけるとは、望外の喜びでした」

 お互い視線は会場へ向けたまま、大きめの独り言を交わします。職務中におしゃべりに興じるなど、あるまじき失態ですから。


「別にスウェン卿をかばったわけではございません。私への嫌みのために近衛兵を貶める発言は違うと思っただけです」

「それでもです。婿入りが叶わぬ以上、自身の爵位が無ければアンジェリン嬢への求婚が断られるは道理。叙爵の可能性はないものかと、王宮へ出仕できる近衛兵になりましたが、そう甘いものではありませんでした」


 え。家付き娘でなくなって、掌返しされたのではなかったのですか。


「近衛兵ならば、伯爵家子息の身分を維持できます。しかし、婚姻を考えるなら家から独立して一代限りの騎士爵になるしかありません。貴女を望むことは許されないと(あきら)めておりました」


 私自身は、平民の方との結婚も考えていたのですが。


「貴女はすでにどこかへ輿入れされたものだと。まさかセリアム公爵家の侍女になられていたとは知りませんでした。お聞きいたします。私は貴女に求婚したい。騎士爵となってセリアム公爵家に仕官し、貴女と婚姻することは可能でしょうか」


 どうしましょう。ドキドキしてきました。

 可能か不可能かと問われれば、答は可能です。セリアム公爵家への士官は簡単ではありませんが、お嬢様にお口添えを頂ければなんとかなるでしょう。


 チラリと横を見れば、スウェン卿と目が合いました。

 何か、何か言わなければ。


「私の一存でお答えはできません。お待ちいただけますか」

 ああ、私の馬鹿。なんてそっけない返事しかできないのか。

 スウェン卿がフッと笑われました。


「即座に断られなくて幸いです。改めてお手紙差し上げます」





「それは胡散臭いね」

 王太子殿下が言い切られました。

 

 ここは王宮の一室。婚約者として王太子殿下を訪ねられたお嬢様のお供をして来ましたら、何故かスウェン卿の話になりました。

 お嬢様は恋バナが大好きなお年頃、すでに根掘り葉掘りお話しした後です。それを改めてお嬢様のお口から聞かされると恥ずかしくてたまりません。


「本気で叙爵の機会を求めるなら、近衛兵など選ばないよ。潔く騎士爵になって、国軍で出世を目指すか王城の官吏になるかするよ。箸にも棒にもかからない職にあぶれた子弟の受け皿じゃないか。それに君が侍女になったのは二年以上前だ。知らなかったってことは、アンジェリン嬢に関心がないってことだろう」


 違う、と言いたいところですが、殿下の言いようは(もっと)もです。


「それに、アンジェリン嬢への縁談が一斉になくなったのは、弟君の身の安全のためでもあったんだ」


 それはどういうことでしょう。

 思わず眉が寄ってしまいました。表情に出すなど、侍女として失態です。


「アンジェリン嬢と婚姻した上で、邪魔な弟君を亡き者にする。そうすれば自動的に子爵家が手に入る。そんな短慮を起こした輩がいたんだよ。未遂で終わったし、醜聞になればワージー子爵家にも風評被害が起きかねないから、公にしなかったけどね」


 ちょっとお待ちください。そんな話、私は聞いていません。


「あら、なぜ殿下がご存じなのでしょう。アンジェが焦ってますわ」

「子爵にアンジェリン嬢が欲しいと申し入れていたからね。事情聴取は随時行っていたよ。王家の情報機関に嘘をつく必要はなかったようだし」

「まあ、()けてしまいますわ」


 お嬢様、そういう『欲しい』ではありませんから。分かって言ってらっしゃいますでしょう。


「スウェン・カスターの思惑がどこにあるか、確かめる必要があるね。公爵家への士官が目的か、本気でアンジェリン嬢と婚姻したいのか、近衛兵から抜け出したいだけなのか。ま、任せてもらおうか」 


 私は一介の子爵令嬢で、公爵家の使用人です。王太子殿下にお手を煩わせる立場にありません。

 なのに何が『任せてもらおうか』ですか。





 言っても無駄だと分かっていますが、本当にこの方が将来の国王陛下だなんて、この国、大丈夫でしょうか。




 恋愛っぽくなっても、現実を見ると夢中になり切れないのがお冨仕様。ははははは。


 お星様とブックマーク、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 自分ちの話で、自分だけが知らない裏事情(それもかなりドロッドロ)を聞かされると…「なんだかなぁ、聞くんじゃなかった」ってなりますな。
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