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再会

 遅くなりました。なんとか頑張ってます。

 セリアム公爵家に奉公して二年。私は侍女として中堅どころとなりました。

 新人の侍女は花嫁修業のための行儀見習いが大半です。

 すでに婚約者の居る者は半年足らず、お相手を探している者は縁談がまとまり次第、公爵家との縁という立派な嫁入り道具を持って、お暇を頂いて去って行きます。

 その中で二年も務めれば、立派なベテラン(あつか)いなのです。


 公爵邸には休憩室という名のお見合い会場が複数あって、誰でも利用できる場所になっていす。高位貴族の子弟から出入りの商人まで、年頃の男性が待ち構えています。

 行儀見習い期間中は、頻繁に休憩時間が与えられます。新人としては少しばかり、いえ、かなり年上の私にも、機会は平等に与えられました。

 ですが、すぐに辞退申し上げました。休憩より仕事を覚えることを優先したいと。


 正直に言えば、年若い男女の熱気に気後れしてしまったのです。

 中には再婚相手を探していらっしゃるのか、年配の男性から声を掛けられることもありましたが、話が(はず)まず気まずいだけでした。


 縁談相手に(てのひら)返しされたことが、小さなトゲになって残ってしまったようです。軽い男性不信になってしまいました。これでは、結婚は無理でしょう。

 結婚せずに済む侍女になれたこと、紹介してくださった寄り親の伯爵様に感謝です。




 中堅以上の侍女は、重要な仕事を任されるようになります。中には結婚されている方もいますが、少数派。夫婦そろってお屋敷にお仕えしている方ばかりです。

 私は年が近いということで、お嬢様のお世話係の一人に加えていただきました。


 近いと言っても、私が五歳ほど年上です。お嬢様は貴族学園を卒業されてお屋敷に戻ってこられました。青春の輝きが眩しいばかりです。

 若いって良いですね。こんな気持ちになるなんて、私も歳をとったものです。


 卒業と同時に社交界デビューされたお嬢様は、頻繁にお茶会やパーティーへ出席されます。そのお供として、私も他家のお屋敷や王宮に出向く機会が増えました。


 お嬢様は幼少の時から第一王子殿下と婚約していらっしゃいます。

 去年無事に立太子なさった王太子殿下は、それはもう、煌々(キラキラ)しいお姿で、物語の主人公そのものです。

 王宮で開かれる夜会の中央で並ばれる殿下とお嬢様、本当にお似合いです。会場の隅で控えながら拝見させていただくのは、侍女の特権でしょう。

 とても幸せで眼福なひとときだったのですが。





「これは、ワージー子爵令嬢ではありませんか」

 声を掛けてきたのは、スウェン・カスター伯爵令息。私の元縁談相手でした。


 スウェン卿は、近衛兵の軍服を着ていらっしゃいました。王宮の警備は近衛兵の職分、この場に居て当然と言えば当然でしょう。


「ご無沙汰しております。ですが、今は任務中なのではありませんか」

 多少つっけんどんになったのは仕方ないと思います。弟が産まれてすぐに、掌返しをなさった方ですもの。

「そうですね。よろしければ、後程お時間を頂いても宜しいでしょうか。お話させて頂きたいと思います」


 お断りします、と言おうとしたのですが、その前にご婦人方に見つかってしまいました。


「まあ、どなたかと思いましたら、ワージー様ではありませんの。今宵は素敵な殿方を見つけられたのですね。羨ましいですわ」

「ホホホ、何人ものご令息を袖になさったのに、まだまだ新しいご縁を探していらっしゃるのね。情熱的ですこと」

「あら、二年を過ぎても侍女を続けていらっしゃるんですもの。理想が高くていらっしゃるんだわ。自信がお有りなのね」


 皆様、元の侍女仲間だった方です。後輩はもちろん、先輩も私より年下でいらっしゃいます。どなたも貴婦人としてドレスに身を包み、夜会に相応しい装飾品を身に着けておられます。

 侍女のお仕着せ姿の私を囲んで嫌味を言う暇があったら、社交に勤しむ方が有意義だとは思いますが。


「でも、近衛兵相手ではねぇ。近衛騎士様になさったらよろしいのに」

「無理をおっしゃるものではありませんわ。ワージー様は御自分をご存じでいらっしゃるのよ」


 クスクスと笑うご婦人方。ちょっとカチンと来ました。

 私が行き遅れなのは事実です。新人の間に嫁ぎ先を見つけられなかった負け組です。侍女の職にしがみついて男漁(おとこあさ)りしていると揶揄(やゆ)されても言い返せない立場です。

 ですが。

 スウェン卿を(おとし)めるのは違うと思います。


「近衛兵のどこがいけないのでしょう。この方はカスター伯爵家のご次男でいらっしゃいます。領地軍の指揮官として王宮に伺候していらっしゃる方、(ないがし)ろにして良い方ではありません」


 どうです。言い返せないでしょう。

 たとえ実態が伯爵家の冷や飯ぐらいの溜まり場だとしても、伝統と建前は否定できないのです。


 元々、戦乱の時代に戦功を立てる機会を逃さないため、貴族の領地軍の指揮官が国王陛下の元へ伺候したのが近衛兵の始まりです。

 命令一つですぐさま出陣できるよう、王都の周辺に自領軍を待機させる。その莫大な戦費を(まかな)うだけの身代(しんだい)は、伯爵家でなければ無理でした。

 その名残で、近衛兵になるのは、全員が伯爵家出身なのです。


 その時、ご婦人方越しに人波が揺れるのを見ました。慌てて姿勢を正します。

 私の視線に、ご婦人方も後ろへ振り向かれて、すっと腰を落とされます。公爵家で花嫁修業されただけあって、さすがの礼儀作法です。





「懐かしい顔ぶれですこと」

 近付いてこられたのは、お嬢様と王太子殿下でした。


 




 お正月特番、なんとか今月中に仕上げたいです。


 お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。

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