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子爵令嬢の事情

 令和六年、元日から能登半島地震で始まりました。


 まだまだ被害は続いていますが、少しでも日常を取り戻したく、投稿再開します。被災地に一日も早く日常が戻ることを願っております。


 私はワージー子爵家長女、アンジェリン・ワージーと申します。子爵家の総領娘でした。

 そう、過去形なのです。私は長らく一人娘でしたが、先日、弟が産まれまして。


 両親に声を大にして言いたい。なんでもっと早く産んでくれなかったのかと。


 自慢ではありませんが、我がワージー子爵家は豊かな領地と堅実な経営、寄り親の伯爵家の覚えも目出度く、婿入り先としては優良物件です。

 伯爵様が年頃のご子息の不在を嘆かれるほどと言えば、分かっていただけるでしょうか。


 伯爵様の肝入りで紹介された縁談相手は、皆様伯爵家出身の方々でした。

 大切な我が子爵家を担っていただくのです。吟味に吟味を重ねました。両親が。


 はっきり言って、高望みし過ぎです。ほどほどで妥協していれば良かったものを。そのせいで私は行き遅れてしまいました。


 家付き娘であれば、まだまだ良縁を望めます。でも、跡取りの弟が産まれたのです。婿取りではなく嫁入り先を探さなくてはなりません。

 今まで先を争うように口説いてらした皆様は、見事に(てのひら)を返されました。それはそれは見事にくるーりと。


 それでも、我が家は有力な子爵家です。同格の子爵家か男爵家へ嫁入りできたでしょう。私がもう三歳若ければですが。

 完全に出遅れ。条件の良い殿方は、すでに既婚か婚約者がいらっしゃいます。残念ですが、諦めるしかありません。


 家を継げない次男、三男の方は、一代限りの準男爵か騎士爵として独立するのが普通です。子供の代から平民になる下級貴族ですが、自身で功績を立てれば、世襲可能な中位貴族に叙爵も夢ではありません。

 性格に難のある方や年の離れた方の後妻になるよりは条件が良いでしょう。


 いえ、いっそ裕福な平民の方が良いかも知れません。平民の方は結婚適齢期が貴族よりずっと長いそうですもの。私にだってチャンスは残っています。

 そう思っていましたのに。


 両親は高齢です。弟が産まれたのでさえ奇跡です。これ以上弟妹が増えることはまず有り得ません。

 弟は生まれたばかり。無事成人するまで、私にはスペアの役割があると宣告されてしまいました。

 いざとなれば私が実家へ戻って女子爵にならなくてはならない、それなりの身分の方に嫁いでおかなければならないと。


 なんという無茶振り。

 私は自分を知っています。女性としての魅力は、無いとは言いませんが、男性を虜にするほどではありません。

 なれるかどうか分からない婿養子の地位だけでは、それなりの身分の方に婚姻していただくなど無理ではありませんか。


 だからもっと早く弟をつくってくれればよかったのです。そうすれば私が行き遅れることも無かったのに。


 とにかく、嫁ぎ先を見つけなければなりません。

 寄り親の伯爵様の伝手では、両親を満足させられる相手を探せません。代わりに紹介していただいたのが、セリアム公爵家の侍女の職でした。


「公爵家ならば、出会いの機会もある。王都の公爵邸には様々な身分の方が出入りするゆえな。地元の狭い社交界とは比べ物にならんぞ」

 そう言って、伯爵様は両親を説得して下さいました。


「すまなんだな。ここだけの話だが、侍女の職なら、子爵令嬢が生涯独身を貫く理由になろう。主に忠誠を尽くすという褒められる立場だ。修道院へ行くよりよほど良かろう。もちろん、出会いがあれば、わしに忖度する必要は無いぞ。子爵の目も届かぬゆえ、自由にするが良い」


 両親よりよほど親身になって下さった伯爵様に感謝申し上げながら、私は王都へ向かったのでした。




 王都は素晴らしいところでした。

 まるで毎日が祭りのような賑わい。清潔で整った街並み。道行く誰もが明るい表情です。多種多様な店舗が立ち並び、上質な商品が所狭しと並んでいます。

 自分がいかに田舎者であったか、否応なく自覚させられました。


 セリアム公爵邸は、王城のすぐ隣にありました。王都の伯爵邸から出していただいた馬車で通用門まで送っていただきましたが、延々と続く高い塀に圧倒されました。

 どう考えても、村一つ入ってしまうほどの敷地があります。


 何もかもが故郷とは桁違いで、尻込みしてしまいそうです。

 ええい、女は度胸です。私には後がありません。


 伯爵様の紹介状を握りしめ、私は新しい生活へと踏み出しました。




 石川県はお隣なので、結構な頻度で揺れております。

 能登で最大震度七の時は、震度五で一分近く長々と揺れました。その後も、テレビで緊急地震速報が流れる度、震度一から震度三の揺れが来てました。

 市町村合併で海沿いの町も同じ市になった関係上、いつもは時報やお知らせを流している防災無線が、大津波警報を伝えていました。


 この原稿を書いている間にも、震度三の揺れがありました。落ち着くまではまだまだかかりそうですが、気持ちだけでも負けないように。被災地の皆様に、出来る限りの応援を。

 微力ながら届けたいと思います。


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[良い点] スピンオフお疲れ様です。 [一言] 拙作でも時折り書かせて頂いておりますが七~八年前まで金沢におりました。 知人にも能登出身者がいますけど私が地元に帰ってから誰とも連絡していません。 心配…
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