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ようこそ熊猫団へ

「ようこそ、熊猫団へ!」



 小柄の男が大きく手を広げて、シルフィを迎えてくれた。

 宿の一室。小柄な男以外に、二人いる。一人は女の子であった。

 見渡してみたが、熊猫要素はどこにも見当たらない。



「お、お世話になります」



 シルフィは小さな声で言った。

 アレンが大丈夫だと言ってくれていたけど、やはりまだ声を出すことも恐ろしい。



「ううーん、小さくて可愛い声!」


「きょ、恐縮です……」


「いいの、いいの! うちにはもっと喋らない子がいるから」



 小柄な男が、奥にいる小さな女の子を指差す。

 女の子はこちらを一瞬だけ見て、すぐに視線を外した。

 あまり歓迎されていないのかもしれない。



「あの子はレンカ。熊猫団の魔法使いだよ」


「………………レンカ……です」


「ほうら、可愛いでしょ! 奥ゆかしいー!」


「………………うるさい……です」


「ううーん! しびれるう! あ、ちなみにボクはテイザット。熊猫団の団長だよ! よろしくう!」



 テイザットと名乗った小柄な男が親指を立てる。

 テイザットの腰には、異様に大きいナックルダスターが下がっていた。どうやら拳闘士であるらしい。明らかにテイザットの拳とサイズが合っていないが、どうにかして使うのだろうとシルフィは気にしないことにした。


 奥にいたもう一人の男は、剣士のようであった。

 大きな盾も置いてある。



「俺はガビンだ」



 アレンより少しだけ低い声。落ち着いた仕草。

 握手を求められたので、シルフィは手を差しだした。



「ガビン、ガビーン!」


「うるせえ、テイザッド!」


「ガビ……が、ぶふぉ!!」



 握手をする直前にふざけだしたテイザットを、ガビンが大きな盾を使って殴り飛ばす。

 勢いよく殴り飛ばされたテイザットが、レンカのすぐ傍を通過し、壁に激突した。



「うちはいつもこんな感じだ」



 隣にいたアレンが短く言った。

 見ると、少し呆れたような表情をしている。だが、決して嫌そうではない。



「他にはもう誰もいないの?」


「いない」


「連携している別のパーティは?」


「いない」


「この人たちだけ……?」


「そうだ」



 アレンが頷いた。

 シルフィの小さな声を聞き取ったのか、ガビンも笑って頷く。


 大規模な冒険者のパーティにずっと所属していたシルフィは、内心驚いていた。

 常識が違いすぎるからだ。

 この人数で、安全に戦えるのだろうか?

 それとも人数が少ないからこそ、戦いやすいのだろうか?


 壁に激突してぐったりしているテイザットを、レンカが叩き起こしている。

 笑いながら起きあがるテイザッド。それを見てガビンが苦笑いした。


 その瞬間、空気が柔らかくなっていったのをシルフィは感じた。

 同時に、無理やりに押し込められてきた“常識”が崩れていくのを感じる。



「……素敵なパーティね」



 シルフィはぽつりと、こぼした。


 組織的じゃない。

 事務的でもない。

 敬礼もない。


 まるで、みんな友達のようだ。

 これこそが、十年前に憧れていた冒険者の姿ではなかったか。



「こんなパーティに、……私も、入れたら良かったな」



 また、こぼれた。

 それは声だけではなかった。


 テイザットの傍にいたレンカが、走り寄ってくる。シルフィの傍に立ち、頬に手を当ててきた。

 シルフィの頬が、濡れていた。その涙を、レンカがそっと拭ってくれる。



「なーに言ってんの!」



 テイザットが身体をふらふらと揺らしながら両手を広げた。



「君はとっくに熊猫団の団員だあ!」



 テイザットが言うと、傍にいたレンカが無言で頷いた。

 無表情ではあったが、嫌そうではない。たぶん、だが。



「ああ。そういうことだ」



 ガビンが笑顔を向けてきた。

 アレンがシルフィの頭の上に手を乗せてくる。


 柔らかい空気が広がった。

 その柔らかさが、手招きをしている。

 シルフィの心の底が、そっと撫でられ、かすかに揺れた。

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