俺と、彼女と、体育祭の、三角関係
俺と、彼女と、体育祭は、小学生からの幼馴染だ。
俺たちは揃ってスポーツが大好きで、運動神経が良く、年に一度の体育祭では、いつも花形選手だった。
中学生になると、体育祭が、同級生から虐められるようになった。思春期の中学生たちは、体育祭に対して不真面目な態度を取るようになったのだ。
誰もいない教室で泣いている体育祭を見つけるたび、俺は体育祭の肩をポンと叩き、彼女はハンカチで体育祭の涙をそっと拭った。
中二の秋、体育祭は練習中に捻挫をしてしまい、楽しみにしていた体育祭のリレーの選手を断念せざるを得なくなった。それから体育祭は、登校拒否を繰り返すようになった。体育祭に参加出来ないことを苦にしてのことだ。
俺と彼女は、帰宅途中に頻繁に体育祭の家に寄り、言葉を尽くして体育祭を励ました。
「おい、体育祭、学校来いよ!」
「そうよ、体育祭、あなたが来なければ体育祭は始まらないわ!」
体育祭当日、応援席には、喉を枯らしてクラスを応援する体育祭の姿があった。
高校生になり、俺と彼女は正式に付き合うようになった。恋人同士になったのだ。この頃から俺と彼女と、そしてあの学校行事との関係が、ギクシャクするようになった。
ある時、彼女が思い詰めた表情で俺に打ち明けてきた。
「昨日、体育祭に、体育器具庫に呼び出され、そこで唇を奪われた。ごめん。私って軽い女よね」
彼女は、俺にしがみついて泣きじゃくり、自分を責めた。
「……許せん! あの秋の風物詩め!」
俺は、校舎裏に体育祭を呼び出し、タイマンをした。三発ほど体育祭のパンチを喰らったが、最後は体育祭に馬乗りになり、フルボッコにしてやった。
次の日、彼女が俺のクラスに血相を変えて飛び込んで来た。
「大変よ! 体育祭が、校舎の屋上から飛び降りようとしている!」
俺と彼女は、階段を駆け上がり、自殺を図る体育祭を説得した。
「はやまるな、体育祭!」
「馬鹿な真似はやめて、体育祭!」
しかし、俺たちの懸命の説得も虚しく、体育祭は校舎の屋上から身を投げた。体育祭は地面に叩きつけられ、砂埃を上げて散り散りに砕けた。
翌朝。校長が、全校生徒を運動場に集め、今年の体育祭の中止を告げた。
全校生徒は、冷めた表情。
みんな体育祭のことなどどうでもいいのだ。
まるではじめから体育祭など存在しなかったかのようだ。
まあ、いいさ。
体育祭のいない体育祭など、体育祭じゃない。
見上げると、抜けるような秋の空。
俺は友を失ったのだ。