硝子細工の紅薔薇
別のアプリに投稿したもののコピペです。初投稿なので誤字脱字等 温かい目で見ていただけるとありがたいです。
あるところに、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃんと暮らしている女の子がいました。お母さんは、女の子が10歳の時に病気で亡くなりましたが、お母さんからの愛情をたっぷり受けて育ったので、いつも笑顔を絶やさない優しい子に育ちました。
女の子は、お母さんが亡くなったその日も涙ひとつ流さず、次の日も、お葬式の日も、一周忌も、ただ笑って耐え続け、時が過ぎるのを待ちました。
お父さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、彼女を不思議に思いました。
『あの子は肉親を亡くしても何故泣かないんだろう』
小さな町の訃報は、あっという間に町中に広まりました。
そして、町の人々は女の子を気味悪がりました。
『あの子はいつも気味が悪いほどニコニコしている。親がいないことを理解していないのか?気持ち悪い、不謹慎だ』
そう罵っては冷たい目で見ていました。
でも、そんなことは全く気にしない女の子は、軽い足取りである場所へ向かいました。
『お〜じ〜い〜さんっ!いる〜?』
重くて頑丈な扉を開けました。
『やあ、君だったか。こんばんは』
『こんばんは〜っ!』
女の子がたどり着いた場所は、町で有名な、硝子細工の工房でした。決して大きな建物ではないけれど、色とりどりの硝子で作られた置物が並ぶこのお店は、年老いた店主が一人で経営していて、女の子は小さい頃よくお母さんに連れられてここに来ていました。
『この時間にここに来るのは、お嬢ちゃんくらいしかいなかったね』
『えへへ…ねぇ、お母さんにあげたいから一輪の薔薇を作ってちょうだい』
『ああ、でもどうしていつも仏花は硝子のお花なんだい?隣町にお花屋さんがあるだろう』
この町はあまりにも小さすぎて、この硝子細工の工房と、古びた商店しかなかったので、それ以外の用事のときには町外に出なくてはなりませんでした。
『うーん…あのね、小さい頃からおじいさんの作る硝子のお花が綺麗だと思ってたの。お母さんもそれが大好きだったからあげたらきっと喜ぶと思うの。それに、本物のお花はすぐ枯れちゃうけど、硝子のお花はずーっと綺麗なまんまだから』
『そうかい…嬉しいね。じゃあさっそく材料を用意しなくちゃ』
この硝子工房、昼間はお客さんがちらほら見える、普通のお店です。
しかし、閉店後の夕方になると、豹変するのです。
『さぁ、周りのことは気にせず存分に泣きなさい』
おじいさんは女の子に優しく声をかけました。
女の子はそう言われるか否か、両手で顔を覆って震えだしました。
『……ううぅっ…うう…どうして…お母さん…どうして体が弱いのに私なんかを産んだの……私が生まれなきゃお母さんは元気なままだったのに…私…私もう笑顔でいるの限界だよ…お母さん…ごめ…ごめんね…うっ…うぅぅ…』
さっきまで笑顔でお話していた女の子の姿はどこにもありません。
大粒の涙を零して泣きじゃくりました。
実はこの工房、夜に作る硝子細工の原料は人の涙なのです。
おじさんは微笑んで女の子の背中をさすってやりながら言いました。
『昼間に作るものは、灰や砂が原料の普通の硝子細工だから、落としたらすぐに割れてしまうんだ。でも人間の涙から作る硝子細工は永久に割れない。なぜならそこに人の熱い想いがこもっているからなんだ。』
そう言うと、おじいさんは女の子の涙をボトルに入れて、工房の裏方に入っていきました。
今まで、どんなに辛くても涙は絶対に流さないと決めていた女の子。それはお母さんに『いつも笑顔でいたら幸せになれるよ』と教えられていたことも関係していたけど、薔薇の硝子細工の材料にたくさんの涙を使うからとっておいた、というのが一番の理由でした。
『ああ、そうだお嬢ちゃん』
『…グスッ…なあに…?』
『普通の硝子細工に色をつける時に使う染料があるんだけど、これは人間の涙から作られた硝子細工には使えないんだ。さすがに無色透明の薔薇っていうわけにもいかないから、色をつけたいと思うんだけど…』
『もしかして…』
『血を、分けてくれないかな』
『…やっぱり。薔薇といえば赤色だもんね。』
人間の涙から作られた硝子細工を染める染料もまた、人間からできたものでなくてはなりませんでした。
女の子はおじいさんから渡されたカッターをそっと腕に当てて、引きました。
紅色の液体をまたボトルに入れて、
『ありがとう、これで最高の作品ができるよ』
と言って、また裏方に入っていきました。
ほどなくしておじいさんは、うっとりするほど美しい、深紅の薔薇の硝子細工を持って裏方から出てきました。
『とっても綺麗…お母さんも喜ぶわ。おじいさん、本当にありがとう。お代をいくら払っても感謝し足りないわ。』
『いいんだよ。君の涙と血液がお代のようなものさ。それより、お母さんにしっかりお供えしてくるんだよ』
女の子はにっこり笑ってお店を後にし、そのままお母さんの眠るお墓に向かいました。
『お母さん、私よ』
墓石の前に座って、静かに語りかけました。
『今日は硝子細工のおじいさんに作ってもらったこの薔薇をあげるわ。この薔薇は魔法をかけてあるから絶対に割れたりしないのよ。お母さん、感動屋さんだからまた泣いちゃったりするかな?』
『そしたらまた、もう一輪持ってきてあげるね』
期待したほどホラーではないかもしれません、すみません。これからもたまに投稿する予定です。