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第二十五話:進展 下

 モモ&リーナのコンビは鍵を受け取った後、即座に帰宅した。もっと言うなら、モモをリーナが引っ張って行った。彼女曰く、『珍味』なるものを食すのだとか。意味が分からなかったが、少なくともお目めをキラキラさせていたリーナを見るに楽しそうな事であるという事だけは間違ない。

 残された四人は、“ある事”について話し合っていた。

 今回の事件においての謎、ルミアの記憶についてである。

 彼女は記憶の一部を取り戻した。一部といっても本当にほんの少しにすぎず、彼女自身がどこの誰なのか等の肝心な部分については不明なままだ。が、それでも記憶が戻った事には違いなく、彼女の手助けをしたいと思っていた煌夜からしてみれば心から喜ぶべき事である。

 しかし、ここには検討すべき幾つかの謎がある。

「『謎の光』、『謎の光景』、そして『謎の青年』ですか………」

 煌夜の話を聞いたカノンが顎に手をあてて宙を仰いだ。ガイアは適当に視線を彷徨わせ、ルミアはきょとんとしている。この三点についての謎を、各々の姿勢で考えているのだろう(ルミアは正直微妙だが)。

「まぁ、最初の二つについては見当がつきますネ」ガイアはルミアを見て、「ルミア君本人が言っていたように、その『光』が彼女の記憶なのでしょう」

「でも、そんな事が有り得るのか? 人の記憶が光なんて形で現れるなんて」

 煌夜としては当然の質問をしたつもりだったが、

「有り得ますヨ。世界は広い。他人の記憶をバラバラの欠片ピースにしてしまう技術の存在だって決して『ない』とは言い切れない。それに、そう仮定すると色々と納得がいくんですよ」

「納得?」

 ええ、とガイアは頷く。

「そもそも『記憶』というのは、『個人』というものを成立させる上では肉体や精神よりもはるかに重要視されます。人間に限らず、生き物が己を認識するために真っ先に必要とするものが記憶ですから。ここまでは分かりますネ?」

「ま、まあ」

「結構。では、そんな記憶が、もし仮に物理的な形、力を得たとしたらどうなりますか?」

「え? それは………」

 そこで煌夜は気がついた。

「そう、君が見た光景は、ルミア君の記憶そのものです。記憶の空間とでも言えばいいんですかネェ? 他にも、覚えていますか? 元々封印されていた鬼神刀の封印が解けた事。そしてそこで人々が見たという『不思議な光』」

「……つまり、封印は“解けた”のではなく、『ルミアさんの記憶』という力によって“破壊された”と、そう言いたいのですか? ガイアーズ」

「流石はカノン様、すぐにワタシの言いたい事を察してくれますネ~。ま、そういう事ですヨ。本来なら解けないはずの大封印が解けたのですから、いっそ凄まじい力で破壊されたと考えた方がシックリ来ると、ワタシとしてはそう考えた訳です」

 記憶というのは、言ってしまえばその人が積み重ねてきた人生そのものだ。その重みが力に換算されるなら、確かにとてつもないほどのものになるだろう。

「……それでも、青年についての謎は残りますけどね」

 ガイアはため息をついた。

 そう、煌夜が見た光景がルミアの記憶だというのならば、そこにいた青年が煌夜に語りかけてきたのはおかしい。あの光景は、言わばテレビに録画した過去の映像を見せられたようなものなのだから。

「ルミア、何か心当たりはない?」

 ん? とそれまでぼんやりしていたルミアは、少し考えるように、思い出すように瞼を閉じたが、

「………いや、分からない。知っているような、知らないような……」

 しばらくそうしていたが、やがて疲れたようにぐったりとしてしまった。本人は思い出せないようだが、きっとその青年はルミアに関係のある人物なのだろう。

『もし君が、これからも『彼女』と共にある事を望むのならば………いずれ巡り逢う『彼女』の“欠片”を、一つ残らず、見落とす事なく全て手に入れるんだ』

 あの青年は、煌夜にそう告げた。

 自分の名前も知っていた、あの人物。

(あいつは、一体誰なんだろう………)

 聞きたい事は山程ある。

 次に彼に逢った時は、きちんと確かめようと煌夜は誓った。










「雅月! いるか!?」

 牛丼屋で犬少女に牛丼(生意気に大盛。彼女の好物認定)を奢ったモモは彼女が食べ終わるなりすぐにダッシュで家に帰宅し、そのままの勢いで弟の部屋に突撃した。

 勉強机に向かっていた弟・百田雅月は兄を振り返って、端整な顔に微笑みを浮かべた。

「やあ兄さん。駄目だよ? ただいまはちゃんと言わないと」

「おう、ただいま―――って違う! おれ、お前に謝らなきゃいけない事があんだよ!」

「ん? 何?」

 首を傾げる弟に、モモはポケットからある物を取り出して見せた。

「悪い、お前からもらった御守り、壊しちまった………」

 出発前、雅月から『御守り』として赤い石を預かったモモだったが、あの戦いの後見てみたら見事に粉々に砕けていた。まぁ石を握った状態で殴ればパンチの威力が上がる、と考えてその石に御守りを抜擢してしまったモモが全面的に悪いだろう。

「わぁ……綺麗に砕けてるね」

 しかし雅月は大して気にした様子もなく、ただおかしそうに笑った。

「怒らねえ……のか?」

 恐る恐るモモが確認する。

「怒らないよ。言ったでしょう? 『御守り』だって。こうして兄さんは無事に帰ってきたんだから、それでいいんだよ。それに、これが砕けたって事は、ちゃんと『役目』を果たしてくれたみたいだし」

「? 役目?」

「何でもないよ、こっちの話」

 そこで、雅月はモモの後ろにいたリーナを見た。

「兄さん。その娘は今日も泊まっていくの?」

「あ? ああ、そのつもりだけど」

「それじゃあ、お母さんにちゃんと言わないとね。さ、行こう二人とも。もうすぐご飯だよ」

 それだけ言うと、二人の横を通って雅月は自室を出ていった。

「???」

 モモは首をひねった。めいっぱい謝る気満々だった彼にしてみれば、雅月のあの態度は何だか妙な肩透かしを喰らったような気分だった。

 そんなモモにリーナが言う。

「モモさん」

「………んだよ?」

「私、ご飯はまだまだイケますよってぐぼぅ」

 とりあえず、チョップで黙らせておいた。










 そこは、全てが闇に覆われた場所だった。

 どこを見渡しても黒、黒、黒。他の色彩を塗りつぶすほどの圧倒的な漆黒が広がった世界だった。

 知っている者が見れば、その場所をこう呼んだだろう。

 『狭間世界アストラル』と。

 だが、そこは『狭間世界』の中でも奇妙な場所だった。

 完全な闇ではなく、はるか上空には煌めく星々が見える、どちらかと言うと夜に近かった。

 そんなところに、『彼ら』はいた。

「ちょっとぉ? 標的どころか、誰もいないんですけどぉ? これはどういう事かしら?」

 若い女の声がそんな事を言った。その声には、微かな落胆の色が表れていた。

 次に、そんな女に同調する若い男の声。

「本当になぁ。こうしてわざわざやって来たのに、肝心の『彼女』がいないんじゃ仕方ないな。アッハッハッハ」

「笑い事じゃないわよ。ようやく『ここ』までこれたと思ったらこの肩透かしっぷりって、人を馬鹿にしてるとしか思えないわ。大体、『あの娘』は『ここ』から出られないんじゃなかったの?」

 女が苛々した調子で問うと、

「………『枷』が破壊されている」

 先程とは別の、低い男の声が答えた。

 彼の手のひらには、錆び付いた鎖の欠片のような物―――ある少女を縛りつけ、一人の少年によって粉々にされた『枷』だったものがあった。

 二人はそれをしげしげと眺める。本来、自分達にしか破壊できないはずだった『枷』を。

「おやおや、こりゃあまた、ものの見事に粉々だなぁ。って事は、あの娘は逃げちゃった訳かな?」

「ちょっと、冗談じゃないわよ。無限に近い世界の中から探し出せっての? そんなのどれだけの時間がかかるのよ?」

「そうだな。運が良ければ一瞬だけど、運が悪ければ何時間、何年かかるやら……見当もつかないな」

 そんなやり取りに、低い声の男は空を仰ぐ。

「………いや、気配は辿れる。あとは見つけて連れ帰るだけだ」

 その発言に若い男の声が、

「へぇ? そこに邪魔者の存在は?」

「………これといって。随分と平和な世界らしい。だが、我らが来たと知れば、例の組織は確実に邪魔してくるだろう」

「ふぅん? なら、『ピエラ』に行かせるか。あいつはこういうの得意だろうしな。ちょっと遊び過ぎるのがたまに傷だけど」

 彼はパチン、と軽く指を鳴らす。すると、突然四人目の声が聞こえてきた。

『お呼びデスカ?』

 男とも女ともつかない声は、どこかふざけた調子でそう訊いた。

「うん、お前にお仕事だ。ある世界に飛んで、手間のかかるお姫様を回収してこい。ついでに『お人形』の方も増やしてきていいから」

『分かりマシタ。お任せを……ププッ』

 最後に奇妙な笑いを残し、それっきり声は聞こえなくなった。

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